林原類人猿研究センター(通称GARI)は、岡山県玉野市の出崎半島にあります。
ここでは、8人のチンパンジーが研究のパートナーとして暮らしています。
そんな彼らの暮らしをちょっぴりご紹介します。

*写真の上にカーソルを置くと、簡単な写真の解説を読むことができます。

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2010年も、残すところあとわずかとなった12月14日。
この日、類人猿研究センター(通称GARI)のスタッフにとって、
大きなイベントの日となりました。
人工保育のハツカを、この日、母親のミサキと同居させることにしたのです。

そのお話の前に、まずはこれまでの経緯を・・・。

ハツカ2才 GARIの人工保育のチンパンジー、ハツカ(2才6か月)。
 ハツカの様子については、たびたびお伝えしています。
 そのため、実際にハツカに会ったことがない人でも、
 ホームページを通してハツカを応援してくれる人が
 たくさんいます。
 本当にありがたいことです。

 

ハツカの育児を拒否してしまったミサキ ハツカは生後40日目、母親ミサキの突然の育児拒否により、
 人工保育になりました。それからというもの、
 私たちは愛情を注いで育てる一方で、
 できるだけ早くハツカを群れに戻すため
 母親のミサキや群れの仲間たちと直接会わせる「お見合い」を
 毎日のようにおこなってきました。

 

 

しかし、ハツカが1才2か月の時、お見合いの最中に、
アルファオスであるロイの攻撃により、大けがをしました。
(詳細は2009年11月のえにっき参照)

けが直後、寝たきりになったハツカ ハツカは、幸いにも一命をとりとめました。
 しかし、大けがをした左足は、
 二度の手術をおこなったにもかかわらず、
 いまだ麻痺が残っています。

 

 

現在はリハビリを続けながら、仲間たちと個別に会う「お見合い」を続けています。
(詳細は2010年6月のえにっき参照)

ロイとの対面の様子 けがをさせたロイとのお見合いは、
 いまだに長くても1分程度の対面です。
 1分程度のわずかな時間でも、
 ロイとハツカを直接会わせることは、
 言い表せないほどの緊張感があります。
 ロイは、落ち着いている日もあれば、緊張している日もあり、
 なかなか安定しません。

ロイとハツカの関係は、あのけがの日から、ほとんど進展していないのです。

しかし、5才のナツキや、同い年のイロハとの関係は、
お見合いを重ねるごとによくなっています。

はじめのうち、ハツカはナツキと遊びたいけど、少し怖さもあり
うまく遊べませんでした。

ナツキと遊ぶ しかし、最近では、ナツキと一緒に走り回って
 追いかけっこをしたり、レスリングをしたりして
 ガハガハ大笑いをしています。
 一方、同い年のイロハとの関係は、
 ナツキとはちょっと違います。

 


はじめは、叩きあったり咬みあったり、ライバルのような感じで遊びも成立しませんでした。
しかし、ある日を境に、ふたりは急接近しました。

イロハとハツカの熱い抱擁  ある日のこと、ハツカがイロハから離れると、
 イロハが悲しい声でなきだしました。
 その後、突然ふたりで抱きあうようになりました。
 「なんだかいい傾向!?」と、思っていたのもつかの間、
 イロハのそんな行動は、長くは続きませんでした。

 

 

しかし、それからというもの今度は、ハツカがイロハに甘えるように・・・。

ふたりで天井にブラブラとぶらさがって遊んでいる時、
イロハが少しでもハツカから遠ざかろうとすると、
ハツカは「フフフ・・・」と悲しい声を出してイロハを呼びます。
イロハは「え?なんで?」という感じで戸惑う様子を見せながらも、
ハツカの所へ戻って、二人で抱きあい、なぜか「キャーー」と感極まる不思議な関係。
イロハの方が年下なのに、なんだかお姉さんに見えてきました。

とても楽しそうなイロハとハツカ そうやってチンパンジーの子ども同士で遊んでいる時、
 やはりハツカはとても楽しそうで、いきいきとしているように見えます。

 また、大人女子3人組、ツバキ、ミズキ、母親ミサキとの
 関係は・・・、というと、残念ながら、決して良好とは言えません。
それでも皆少しずつハツカを受け入れつつあるようです。

 

ミサキに突き飛ばされたハツカ ミサキははじめのうち、
 ハツカがそばに来るだけで「オッ!」と威嚇の声を出して怒ったり、
 咬みつきそうになったりしていました。

 

 



しかし、お見合いを重ねるうち、ハツカがそばに来ても怒ることが少なくなってきました。
ハツカがいても無視をしているような感じです。
「本当は親子なのに」と考えると、「怒ることが少なくなってきた」とか、
「無視をしている」という状況は、全然喜ばしいことではありませんが、
これまでの二人の関係を考えると、私たちはこの状況を「進展」だと思っています。

そして、大きな決断をしました。
人工保育になってからずっと、スタッフと一緒に過ごしてきたハツカを、
母親のミサキと同居させることにしたのです。

12月14日。
昼間、いつもようにの個別のお見合いを終えました。
そして、その日の夕方、母親のミサキをひとりだけ、群れから離しました。
ロイ、ジャンバ、ツバキ、ミズキ、ミサキ、ナツキ、イロハという7人で
暮らしてきた群れから、一人を離すことも、スタッフにとっては不安材料です。
群れのバランスが崩れてしまうかもしれないからです。

またミサキも、出産のため産室となる部屋に移動した時以外は、
小さな頃からずっと群れの仲間と一緒に暮らしてきました。
“自分だけが群れから離れる”という経験はしたことがありません。
ミサキが、個室で落ち着いていられるのかも、とても心配でした。

ハツカとスタッフ スタッフにおんぶしてもらうミサキ

そんな不安を持ちつつも、ミサキだけを別の部屋に移しました。
そしてその日の夜、スタッフ4人とハツカが、ミサキのいる部屋に入りました。
これから先の長い長いお見合いが始まります―――。

 

――― ここは、ハツカが2年間過ごしてきたスタッフの部屋。

ハツカのお部屋へようこそ
ハツカのいたずら防止のため、いろんな工夫がされていました。
2年間、ハツカはこの部屋で過ごしてきました。
ここで毎晩スタッフと寝ていたのです。

気持ち良さそうに眠るハツカ  ミルクを飲む お散歩へ
一緒に添い寝をし、夜中にミルクを飲ませ、一緒に寝て、
早朝からハツカに起こされ、またミルクを飲ませ、お散歩に行く・・・。
そんな毎日でした。

いつもスタッフの中心にいたハツカ いつもこの部屋のドアを開けたら必ずそこにいた
 やんちゃなハツカが、今はもういません。
 正直、スタッフにとってはさみしくもあり、
 ミサキとの関係がこの先どうなるかわからない状況を
 考えると、心も痛みます。
 でも、ハツカにとっては将来チンパンジーの群れの中で
 暮らすことが一番です。

そのための第一歩。
ミサキとの同居生活が始まりました。

ミサキとの同居生活のはじまり

 ミサキとの同居の様子は次回お伝えします。

 

 

 

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今年は、猛暑の影響でしょうか?
夏の終わりから、毎週のように人里にイノシシやニホンザル、クマが出没した…
といったニュースが続いています。

類人猿研究センター(通称GARI)のある玉野市の出崎半島も、
たしかに今年は例年以上に動物が出没します。

夜遅くに車を走らせれば、全行程2キロほどの山道のあちこちにタヌキの姿が…。
たまにはノウサギにも出会います。
中には、キツネやシカを目撃したというスタッフまでいます。

そして、この“野生動物”にまつわるある事件が、9月末にGARIで起こったのでした。

いつもと何も変わらないように思えたある朝。
いつもと変わらず、チンパンジーの朝食を始めた時のこと…。

第二放飼場(半屋外運動場) こちらは、夜間、廊下を通じて寝室と行き来できるように
  なっている第二放飼場(半屋外運動場)です。

 その日の朝、チンパンジーが朝食の順番を待つ
  この運動場に、怪しげなものが落ちていました。

 

 

何だ?これは!!

 茶色くて、ふさふさした毛のようなかたまり・・・、

 「えっ!なに??」

 

 

チンパンジーたちはその毛のようなかたまりをあまり気にしていないようだったので、
とりあえずそのまま全員の朝食を済ませることにしました。

朝食の様子 しかし、その朝食時間に、あの怪しげなものの正体が
  わかったような気がしました。

 ロイ、ジャンバという男の子二人が、
  朝食のため室内に入ってきたとき、
 二人ともやたらと生臭いのです!

 「嫌な予感…。」

 

チンパンジーの朝食を終え、スタッフが確認のため運動場に入ってみると、
そこにはなんとも恐ろしい光景が…。

運動場のあちこちにタヌキがバラバラに引き裂かれて、ちらばっていたのです!

頭がころがり、胴体がころがり、内臓がころがり…。

タヌキの胴体…  タヌキの足…

おそらく、その日の早朝、チンパンジーたちが目覚めて運動場に出た時、
たまたま運動場に侵入していたタヌキを見つけ、つかまえたのでしょう。
つかまえたあとは、皆で興奮して、お祭りさわぎだったに違いありません。

“タヌキをつかまえた”という騒動は、数年前にもありました。
その時は、騒動の一部始終を見ることができました。

タヌキをあっという間につかまえたジャンバが、手に持って走り回り、
ロイもそのタヌキを欲しがってジャンバを追いかけ、皆で騒いでいました。

動物を食べるために狩るのではなく、狩る(つかまえて殺す)ということ自体が
目的のようでした。

そして、タヌキのバラバラ事件から一週間後、また事件が起こったのでした!

今度は、夕食と寝かしつけを終えた直後の夜の第二放飼場。
真っ暗な運動場でチンパンジーたちが騒ぎ始めました。

「まさか!」

すぐにスタッフが駆けつけると、
なんとジャンバがまたタヌキを持って騒いでいたのです!

二匹目の被害者 興奮してすぐに手離す様子が無いジャンバに、
 なんとかタヌキを手放させ、スタッフが回収に行きました。
 ほんの数分前まで生きていたとわかる
  きれいな死体でしたが、
 無残にも前足がちぎられ、
  後ろ足もぽっきりと折れていました。

 

一瞬にして動物を殺してしまうこの行動は、野生チンパンジーでは当たり前のことですが、
飼育下ではあまり見ることがありません。
普段なかなか見ることの無いこの残虐さに少し恐怖を覚えました。

長靴で遊び、喜ぶロイ 研究のパートナーとしてチンパンジーとつきあっていると、
  いつもは彼らの知性や、「やさしい」「おもしろい」などの
  個性が目に付きます。
 しかし、チンパンジーにはやはり、
  力が強く攻撃的な面もあるのです。

 

ロイとスタッフ タヌキが運動場に侵入してきた穴をふさいでからは、
 もうこのような事件は起こっていませんが、
 チンパンジーの本能的な行動を目の当たりにして、
 チンパンジーとつきあっていくことに、
  一層気をつけなければならないと思えた出来事でした。

 

 

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類人猿研究センター(通称GARI)は、
進化の隣人=“チンパンジー”の研究をおこなっています。
でも、ヒトにもっとも近い類人猿は、実はチンパンジーだけではありません。
「ボノボ」という動物をご存じでしょうか?

今回は、この夏、野生ボノボの調査に行った山本研究員が、
現地調査のエピソードとともに「ボノボ」をご紹介します。

*****
ボノボは、20世紀になってから発見された「最後の類人猿」です。
チンパンジーに比べると研究も進んでいないため、
「忘れられた類人猿」というちょっとさみしい呼び方もされています。
英語で”bonobo”と入力すると、スペルミスとして認識されてしまうほどです。
そんなボノボに会いに、アフリカまで行ってきました。

2010年夏。コンゴ民主共和国にて。 ワンバの子どもたち

アフリカ大陸のちょうど中央部、コンゴ民主共和国。
日本人研究者が1973年から調査をおこなっているワンバ村を目指しました。 

首都キンシャサからセスナ機で飛ぶと、ひたすら森、森、森。
平らで色濃い熱帯雨林が限りなく広がっていました。
ここが世界で唯一、野生ボノボの暮らす森なのです。

空から見る熱帯雨林 ワンバの京大キャンプ
野原の草を刈っただけのような滑走路に降り立ち、
そこからさらにバイクに揺られること約3時間。
日も暮れかけたころ、ワンバ村の人々に迎えられ、調査拠点のキャンプに到着しました。  

朝5時にキャンプを出発。森の中は暗く、ヘッドライトをつけないと道が見えません。
Tシャツ・サンダル姿のコンゴ人ガイドの背中に必死でついていきます。
1時間ほど黙々と歩いたとき、突然ガイドが立ち止まりました。
その視線の先には・・・ 木の上からボノボがこちらをじっと見つめていたのです。
はじめて見る野生のボノボ。
この静かな森の世界をボノボと共有している感動がこみ上げてきました。

ワンバ村の朝 ボノボ !!

甲高い声、小柄な身体にすらりと伸びた手足。やはりチンパンジーとは違います。
見た目だけでなく、行動も違うようです。
運よく、2つの隣接する群れが出会う場面を観察することができました。
こんなとき、チンパンジーだったら群れ同士大ゲンカになります。
殺し合いの戦争になってしまうことさえあります。
ところが、ボノボは違うんです。
異なる群れのおとな同士が、仲睦まじく毛づくろいし、交尾もし、
食べものを分けあったりまでしていました。

森にとけこむボノボ あくびする子どものボノボ 大きな果実ボリンゴを食べるボノボ

なぜこんなに違うのでしょうか?
その答えをみつけるのが、私たち研究者に残された宿題です。
今言えるのは、こんなに性質の違うボノボとチンパンジーが、
どちらもヒトとDNAの約99%を共有しているということです。
つまり、ヒトはチンパンジー的な性質も、ボノボ的な性質も持ち合わせているはずなのです。
どうせなら平和的な社会に生きたいと思うのは、私だけの願いではないでしょう。

「忘れられた類人猿」から学ぶことは多いはず。
そんな期待をこめて、進化の隣人たちの研究をこれからも続けていこうと思います。

道なき森を進む はだしのガイド

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二才になったイロハ 9月5日。
 ミズキの子“イロハ”が、2才の誕生日を迎えました。

 

 

 

ロイと遊ぶ 最近は、お母さんと一緒にいるより
  群れの仲間たちと遊んでいる姿を多く見かけます。

 群れの大人オス“ロイ”も“ジャンバ”も、
  5才のお姉さん“ナツキ”も、
 少しおっとりとした小さなイロハのことが、
  かわいくてしかたない様子です。

ナツキがイロハをおんぶする 私が思うイロハの魅力。
 それは、やはり「おっとりさん」な所。
 それからもうひとつ…。
 なんとなく「物静か」な所です。

 

 

チンパンジーの赤ちゃんは、ヒトの赤ちゃんほどは声を出しませんが、
お母さんの声に反応して「オオオオオ」と大きい声を出したり、
思いどおりにならない時や、不安な時には「フフフフフ」と声を出したり、「キャー」と泣いたり、好きな食べ物がもらえると「アアアアア」と喜びの声を出したり、
いろんな感情の声を出します。

ナツキ(現在5才)やハツカ(現在2才)の成長過程を見ていても、
わりとよくおしゃべりする(発声する)赤ちゃんでした。

悲しい時のイロハ ところが、イロハは他のふたりよりも圧倒的に発声が少なく、
  発声したとしても、楽しい時も悲しい時もなんだか声が小さいのです。

 

 

 

楽しい時のイロハ たくさんおしゃべりはしないけど、
  表情や身振りで訴えてくる…そんな子です。

 

 

 

 

実際に、イロハの目はかなり訴えてきます。

イロハ、訴える。 イロハのちょっぴり上目遣いな目と、
 おいしいものがもらえたときについ出てしまう
 「ブーン、ァァ」というイロハの独特の声は、とてもチャーミングです。

 おっとりマイペースなイロハだからこそ、
 群れの仲間たちもなんだかほうってはおけないのかもしれません。

 …とはいえ、これからがやんちゃになる時期です。
 イロハがどんなふうに成長しているか、またお伝えしたいと思います。

 

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8月下旬。
今年はとても暑い日が続いています。
それでも、だんだんと日が短くなり、秋はもうすぐそこまでやってきているようです。

秋の夜長。
涼しくなった秋の夜を、皆さんはどう過ごしますか?

さてさて、チンパンジーは毎夜、どのように過ごしているのでしょう。

今回は、野生のチンパンジーのベッドについての研究をおこなっている座馬研究員に、
夜のチンパンジーについて書いてもらいました。

ちょっぴり個性的な(?)座馬研究員のえにっきをお楽しみください!

*****

チンパンジーはヒトと同じように、
昼間に動いて、夜は寝ます。

ワラの敷き詰められた居室  類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーは、
 寝室で夜を過ごします。
 毎日、きれいなワラが敷き詰められて、
 ちょっとハイジな雰囲気です。

 

 

ワラのベッド このワラを自分の周りに寄せ集めて、
 お椀のようなベッドを作ります。
 だいたい1晩にひとつ作ります。

 

 

 

樹上のベッド  野生のチンパンジーは、木の上にベッドを作ります。
 大枝を組み、その上に葉っぱの多い小枝を
 敷きつめるので、ふかふかです。
 ためしに登って寝てみたら、森のかおりにつつまれて、
 とても心地のよいベッドでした。

 

さて、それでは、夜のチンパンジーを拝見!
赤外線カメラを遠隔操作して観察しました。
実際はまっくらです。

ミサキの寝相 ミサキが横になって寝ていますねえ。
 調べてみると、GARIのチンパンジーの寝相で
 もっとも多いのは横向きでした。
 腕を枕にするところは、ヒトと同じですね。

 

 

ロイの寝相 チンパンジーに個性があるように、
 寝相にも個性があります。
 段差にベタッとくっついて寝るのはロイです。
 落ちそうだけど、なぜか落ちません。

 

 

ジャンバの寝相 こちらはジャンバです。
 倒れて死んだように寝るのが好きみたいです。

 

 

 

ナツキの寝相 オトナはだいたい決まった寝相で寝るのですが、
  コドモのナツキは寝相が悪いです。
 仰向けになったり、うつぶせになったり、
 横向きになったり。

 

 

ナツキの寝相その2   あっち向いたり、こっち向いたりして、
 お母さんのツバキにぶつかったり。
 ヒトの子どもとおんなじですね。

 

 

 

さて、それでは問題です。
チンパンジーもヒトと同じように
夢を見るのでしょうか?

じつはよく分っていません。
ヒトではレム睡眠のときに、よく夢を見ると言われています。
チンパンジーにも、ヒトと同じようなレム睡眠があるので、
夢を見ている可能性があると言われています。

ただ、こんなエピソードがあります。

ジャンバが寝ているロイにあいさつ みんなが寝静まっている深夜のこと、
 ジャンバがいきなり起きて、暗闇の中、ロイに近づき、
 やたらと激しくあいさつするのです。「オ・オ・オ・オ・オ!」。

 そして、その後、ジャンバは同じ場所に戻って、
 パタンと寝てしまいました。

 

いったい何が起こったのかよく分りませんでした。
もしかしたら、ジャンバの夢にロイが出てきて、
二人の間に何か気まずいことが起こったのかもしれませんね。

GARIの夜は、ちょっと、にぎやかです。
かれらの社会の一面が見えてきます。

夜の森  それでは、野生のチンパンジーの夜はどうでしょう?
 木の上のベッドの寝相は?
 小さな子とか、木から落ちないの?
 危険な動物がやってきたらどうするの?

 

 

この問題は、この冬、アフリカで調べてみようと思っています。
ということで、お話のつづきは、またの機会に。

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ナツキがこんなに大きくなりました! ハツカに引き続き、7月に誕生日を迎えた女の子がいます。
 ナツキです。
 8日で、5才になりました。

 

 

 

 

9才で、ナツキを出産したツバキの例を考えると、
チンパンジー年齢の「5才」は、確実に大人への階段をのぼっている時期です。

ナツキのおしり 個体差はありますが、5、6才頃から、
  女の子はだんだんと性皮と呼ばれる部分が
 ぷっくりと腫れ始めます。
 性皮の腫れが目立つようになると、
  オスの目をひくようになり、オスにとって、
  だんだんと「子ども」ではなく「大人の女(メス)」として
  見られるようになります。

そしてやがては交尾をし、赤ちゃんを産んで、そこから子孫をつなげていきます。

群れで暮らす 類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーは、
  現在、一群で暮らしています。
 つまり、群れの中にはナツキのお父さんのロイもいます。

 

 

ロイ自身は、「ナツキは我が子だ」という認識がないため、いずれは、
ロイがナツキと交尾をするということもありうるかもしれません。
実際に、遊びの延長のような形で、
ロイがナツキに交尾のような格好をしているところも観察されています。
ナツキが4才10ヶ月の時でした。

野生では、年頃になったメスは、みずから生まれ育った群れを出て、他の群れに移籍します。
近親交配を防ぐという本能が備わっているのです。
しかし、飼育下では、みずから群れを出ていくことはできません。

近親交配を避けるため、いずれはロイとナツキも一緒には暮らせなくなります。
つまり、ナツキも、いつか他の飼育施設へお嫁にいくことになるのです。

数年先のその時のことを想像すると、さみしい気持ちになりますが、
ナツキがお嫁に行く日はだんだんと近づいてきているようです。

前歯、ないねん。 とはいえ、現在のナツキは、見た目まだまだ子どもです。
 ときどき性皮が膨らみかけている日はあるものの、
 3才の時に虫歯で抜けたっきり、“前歯がない”が
  トレードマークの歯抜けのナツキは、なんとも言えない
  愛嬌を持ったおてんば娘です。

 

 

願いよ叶え! そのおてんば娘のために、今年のGARIの七夕の短冊には、
 ナツキの気持ちを代弁して(?)、こう書いておきました。


 『前歯が生えはじめますように。 ナツキ』

 

 

 

すると、どうでしょう。
七夕が過ぎ、翌日のナツキの誕生日が過ぎたころ、ナツキの口の中を調べてみました。

えっ?マジ?

じゃーん!!前歯出てきた! なんと、ナツキの前歯が生えはじめていました!!
 しかも、こんなにでっかいでっかい永久歯です。

 内心「こんな歯に噛まれたくないなぁ〜」と思いながらも、
  ナツキの成長を喜んだ出来事でした。

 

 

アハハ!毎日楽しいよ! 大きな病気もケガも無く、元気いっぱいに育ってくれているナツキ。
 ナツキがお嫁に行くその日まで、
  これからもたっぷりと愛情を注いで育てていきたいと思います。

 

 


 

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Happy Birthday! 2010年6月20日。
 現在、人工保育中のハツカが無事、
  2才の誕生日を迎えました。

 

 

生まれて1ヶ月ほどで、母親のミサキが突然育児をやめてしまい、
ハツカは人工保育になりました。(詳細は2008年8月のえにっき参照)

人工保育になったその日から、ハツカを群れに戻す取り組みとして、
仲間のチンパンジーと会わせる「お見合い」もおこなってきました。

そして、ずいぶんと関係がよくなっていた2009年8月。

ちょっとしたきっかけから、ロイの攻撃にあい、ハツカは大ケガをしました。

手術により一命を取り留めたハツカは、その後も、手術や検査を何度も繰り返し、
再びお見合いができるまでに回復しました。

しかし、ロイの攻撃による二度目のケガ。(詳細は2010年2月のえにっき参照)

生まれてたった二年の間に…、幼いハツカには過酷すぎる試練に思えてなりません。

こんなに大きくなったよ! しかし、そんなハツカだったからこそ、
  元気に二才の誕生日を迎えられたことは、
  私たちにとって本当にありがたいことでした。

 

 

 

 

ハツカの左足の麻痺はまだ治っていませんが、二才を目前に、
群れの仲間と直接会わせる対面のお見合いを再開することにしました。

ガラス越しなどの間接的なお見合いでない、対面のお見合いは、正直スタッフにとって、
言葉にできないくらいの緊張感があります。
なぜならそれは…。

残酷な考えかも知れませんが、一瞬にして仲間のチンパンジーにハツカを奪われ、
殺されてしまうかもしれないという恐怖感がつきまとうからです。

6月16日、二度目のケガから4か月半ぶりに、対面のお見合いを再開しました。
順番に@ロイ(オス)、次にAジャンバ(オス)、次にBツバキ(メス)ナツキ(メス)親子、
最後にCミズキ(メス)イロハ(メス)親子とハツカのお母さんミサキ
…という4組とそれぞれ同じ部屋に入り、対面をさせます。

不破研究員がハツカを抱いて入室する 不破研究員がハツカを抱き、
  たくさんのごほうびの食べ物を持って仲間のいる部屋に入り、
 食べ物を渡して退室する。
  様子を見ながら他のスタッフも一緒に入ります。

 はじめはわずか数十秒の対面時間です。

 

 

「なんだ、たったそれだけ?」と思われるかもしれません。
でも、チンパンジーにとって、ほんの数秒の間に赤ちゃんの命を奪うことは
たやすいことなのです。

「同じ部屋に入る」という、ハツカがケガを負う前には当たり前にできていたことが、
今では命がけです。

私たちは仲間のチンパンジーの様子、特にロイの様子には細心の注意を払いながら、
お見合いができる日は、毎日おこなっています。
しかし、スタッフも、おそらくチンパンジーも、まだまだリラックスした雰囲気ではありません。
残念ながら今はまだ、ハツカに母性を示す者や、危険からハツカを守ってくれそうな好意的な者はいません。

同い年のイロハとやりあう それでも、ハツカの方はナツキやイロハという同年代の仲間と
  遊べる時間がうれしい様子です。

 

 

 

2才になったハツカ ハツカのお守り

「今日も、ハツカが無事でありますように。」
「ハツカが、早く仲間と一緒に暮らせますように。」
ハツカのお守りにお願いをして、今日もお見合いに出かけます。

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今年は、暖かくなるのが遅かったからでしょうか。
5月に入り、ようやく草花が鮮やかになりはじめました。

野外運動場の様子 類人猿研究センター(通称GARI)の野外運動場では、
 ひと雨ごとにぐんぐんと草花が成長しています。

 シバ、シロツメクサ、ニワゼキショウ・・・。

 

 

ニワゼキショウは、チンパンジーが運動場でよく食べる草のひとつです。
穏やかな天気の日に、のんびりと草を食べるチンパンジーの姿は、
見ているだけでこちらもゆったりとした気持ちになれます。

ニワゼキショウとハツカ ニワゼキショウを食べるハツカ 野外運動場で草を摘んで食べるジャンバ

半屋内の運動場の様子 ここは、もうひとつの運動場。
 半屋内の運動場です。
 四方が壁やガラスで囲われていて、
  天井が格子になっています。
 そのため、日光も雨もそのまま降り注ぐ、
  室内にいるような野外にいるようなちょっと不思議な空間です。

ここで、4年前から取り組んでいる緑化計画があります。
それは、運動場の格子の屋根に、夏の直射日光を遮るため、“つる”の植物で“緑のカーテン”を作ること!

はじめは、ヒョウタンやヘチマで栽培をはじめましたが、去年からゴーヤでチャレンジしています。
ゴーヤなら、収穫をすればチンパンジーのごはんにもなるし、一石二鳥!という考えで取り組みを始めました。

ゴーヤを食べるミサキ  そう、GARIのチンパンジーは「ゴーヤ」を食べます。
 でも、人がゴーヤを食べる時、
  種とわたを取り除いて「皮」の部分を食べるのに対し、
 チンパンジーは、「わた」を食べて、
  皮の部分は残すことが多いのです。

 

熟れたゴーヤ! そして、彼らが好きなのは、緑のゴーヤよりも熟れて
  オレンジ色になったゴーヤ。
 いつも私たちが食べている緑のゴーヤはとは違って、
  熟れてオレンジ色になったゴーヤはこんな感じ。
 種の周りは真っ赤で、これがとても甘いのです。
 チンパンジーはこの甘い部分を好んでよく食べます。

 

ゴーヤがチンパンジーに食べてもらえるなら一石二鳥!
でも、一見、簡単そうに思えるゴーヤの栽培。これがなかなかうまくいかないのです。

一年目。
この年は、チンパンジーがいる運動場の土に、直接、苗を植えてみました。
すると、苗は成長する前に、あっさりとチンパンジーに根こそぎ抜かれてしまいました。
それを見越して、格子屋根の外側に、プランターを置き、そこでも栽培を始めましたが、
順調に成長を始めたところで、その年の台風の影響で、海の潮風に当たってすべて枯れてしまいました。

テラスで苗を植える(タワーでチンパンジーが見ている) チンパンジーもタワーから興味津々 台風の潮で枯れてしまった

二年目。
格子屋根の外側に置いたプランターで、再び栽培をはじめました。
ところが、プランターでは栄養が不十分なのか、または日光が足りないのか、
あまり元気に成長しませんでした。
それでもなんとか、“つる”がのびはじめました。

つるをネットに巻きつかせるが、いろいろとトラブルが起こる ところが、格子に“つる”が巻きつくと、
 今度は、巻きついた矢先にチンパンジーが
  ちぎってしまいました。
 ネットを張り、そこにつるを誘引すれば、
  ゴーヤは順調に成長をしますが、
 風などで少しでもネットがたるんでしまうと、
 格子の隙間からすぐにチンパンジーにネットごと
引きずり込まれ、こわされてしまいます。

なかなか思うようにはいきません。
ヘチマやゴーヤなんて、どこでもぐんぐん成長するものだと思っていたのに…。

三年目。
今度は、“つる”をチンパンジーがちぎってしまったり、ネットをこわしてしまったりしないように、格子の上に棚を作り、そこにつるを誘引することにしました。
これで、ようやくまずまずの成長をみせましたが、もっともっと茂らせたい…。

棚を作った! ようやくカーテンらしくなってきた?

そして、四年目となる今年。
「今度こそ日光を遮るカーテンのようにゴーヤが茂ってほしい!」という思いで、今年もまたチャレンジしています。

年々改良を加えながら、いつかチンパンジーの運動場の屋根に緑のカーテンがかかることを夢見て、のんびりとがんばりたいと思います。

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ロープを登るナツキ 類人猿研究センター(通称GARI)で、
  はじめて生まれたツバキの子、ナツキ。

 7月で5才になります。

 

 

今回は、ツバキ&ナツキ親子の最近の様子をお伝えします。

もうすぐ5才になるナツキは、ただいま体重24kg。
よく食べ、よく寝て、よくやんちゃをする、男の子顔負けのとても元気な女の子です。

「毎日が楽しい!」
ナツキはそんな様子をからだ全体で表していて、
運動場で遊んでいる時も、実験室に入ってきた時も、とにかく何をしていても、
いつも笑って飛び跳ねています。

運動場で飛び回る 実験室でスタッフにいたずら

小さい頃は、いつもお母さんのそばにいて、少し離れたとしても
必ずお母さんが見える場所にしか行きませんでした。

イロハと遊ぶ様子 しかし、4才にもなると、ひとりでお母さんから
  何十メートルも離れた山の中に食べ物を探しに出かけたり、
  お母さんのことなど気にもかけず、
 夢中で1才の赤ちゃん「イロハ」の遊び相手になっていたり、
 だんだんとお母さんから離れて過ごす時間が増えてきました。

 

しかし、もうすぐ5才になる今でも、小さい頃から毎日欠かさず続いている
親子のスキンシップがあります。

それは・・・、お母さんのおっぱいを吸うことです。

一般的に、チンパンジーは5才くらいまで授乳をすると言われています。
ナツキは、今も毎日お母さんのおっぱいを吸っています。

寝る前の親子のひととき ただ、ツバキのおっぱいはもう出ていません。
 でも、ナツキは群れの仲間に叱られてつらくなった時や、
  毎日寝る前には、決まってお母さんのおっぱいを吸います。

 

 

ツバキはそんな「大きな赤ちゃん」のおねだりを嫌がることもありますが、
結局いつもおっぱいを吸わせてあげています。

毎日ナツキが元気に楽しく走り回って遊んでいるのも、
そんなお母さんの愛情が基盤にあるからかもしれません。

小さい時からよく一緒に遊ぶ親子 生まれた時からずっと続いているこのスキンシップが表す
  ように、今でもツバキとナツキは、お互いを気にかける
  とても絆の強い、仲良し親子です。

 

 

ツバキもその昔、今のナツキくらいの頃は、とてもやんちゃで世話好きな女の子でした。
そんなやんちゃなツバキが、出産、子育てを経験することで、今では落ち着いた、
しっかりとしたお母さんになっています。

ナツキ(左)とツバキ(右) ナツキも将来、ツバキのようなしっかりとした
  お母さんになってくれるのでしょうか?
 ツバキの愛情をいっぱいに受けたナツキが、
  どんな女の子へと成長していくのか、
 これからがとても楽しみです。

 

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2009年8月、人工保育のハツカを、群れに戻すためのお見合い中に、アルファオス(リーダー的存在のオス)のロイが、ハツカに大けがを負わせてしまう事故が起こりました。
(詳細は2009年11月のえにっき参照)

人工保育のハツカ 麻痺の残る左足

ハツカの脚の骨折は、三回の手術を経て回復したものの、左足には麻痺が残っています。
しかし、私たちはハツカを群れの仲間たちと会わせるお見合いを
再開することを決断しました。

けがを負わせたロイに、再びハツカを対面させることは、
正直なところ、私たちにとって、とても怖いことです。
目の前で、ロイの様子が一変し、ハツカを攻撃してしまったおそろしい現場を見ているだけに、どうしても不安がつきまといます。
でも、そうしてハツカを群れの仲間たちから遠ざけていては、ハツカはいつまでたっても群れに戻ることはできません。

年明けから本格的にお見合いを再開するにあたり、2009年12月末、ハツカをガラス越しに群れのチンパンジーに会わせました。

ガラス越しにハツカの左足を見つめるツバキ ガラス越しにハツカを見る母親のミサキ

数ヶ月ぶりにハツカと会った仲間たちの反応はというと、
麻痺が残るハツカの脚を不思議そうにじっと見つめるツバキや、
遊びに誘う様子の4才のナツキや1才のイロハ、ハツカを気にかける様子のミズキなど…
まずまずの様子でした。

しかし…、肝心のロイだけは、他のだれとも違う反応を示しました。

ハツカを見るなり、グリメイス(歯茎をむき出しにして恐れを表す表情)をして、
仲間に助けを求め、パニック状態になりました。

毛をふくらませ攻撃的なロイ

そして、そのパニックはすぐに攻撃の行動へと変わり、ガラス越しに大きく体を揺らしたり、暴れまわったりしました。
この先予定している対面でのお見合いが順調に行くとは思い難い、ロイの反応でした。


数回にわたり、間接的にハツカを会わせるお見合いを繰り返し、
ロイの様子が少し落ち着いた2010年1月14日、
本格的にハツカと群れのチンパンジーたちを対面させるお見合いを再開しました。

実験室にチンパンジーをひとりずつ呼び入れ、
そこにスタッフがハツカを抱いて連れて入ります。

数か月ぶりにハツカに会った仲間たちの反応は、
決して落ち着いて見ていられるものではありませんでした。

ロイは、「ハツカと会う」というそのことがわかっただけで、ぶるぶると震えだし、
会う前から落ち着きがなくなりました。どうしてよいかわからない様子で、
すぐにパニック状態になります。

ロイの中で、あの日の事件がやはりトラウマとなって残っているようでした。

ハツカの本当のお母さんのミサキも、一児の母であるツバキも、母性はあるはずなのに、
ハツカに対しては特別な距離感があるようで、
ピリピリとした空気でハツカを見つめていました。

私たちは細心の注意を払いながら、ほんの数十秒の対面でも、とにかく毎日仲間たちとハツカを会わせることを繰り返しました。

そして少しずつ、仲間たちの反応が変わり、交流がうまれました。

楽しそうに遊ぶナツキ(左)とハツカ(右) 4才のナツキは、やんちゃにハツカを遊びに誘います。
  ハツカもそれがうれしそうです。
 1才のイロハとはすぐにけんかになるものの、
  久々の仲間同士の遊びでハツカは生き生きとしていました。

 

 

ハツカ(右)を遊びに誘うジャンバ(左)  オスのジャンバには、
  ハツカから遊びかけるようにもなりました。

 ジャンバは、ロイと同い年ですが、
  なぜか女の子や子どもに好かれる独特の雰囲気を
  持っています。ハツカもそれを察してか、
  ジャンバにはとても積極的でした。


しかし、お母さん候補のツバキ・ミズキ・ミサキとは、接触はあるものの、
期待できそうな友好的な関係は見られませんでした。
3人の中でも、ミズキはハツカを気にかけている様子でしたが、
ハツカがミズキに心を許していませんでした。

ハツカ(右)を気にかけるロイ(左) すぐにパニックになっていたロイも、
  だんだんと落ち着きを取り戻し、ハツカに顔を近づけたり、
  触ったりするようになりました。

 ハツカの方は、ロイを警戒して逃げ腰でしたが、
  対面のお見合いを始めて半月後には、
  ロイがハツカをくすぐり、ハツカも笑って応じるようになりました。

そうしてお見合いがなんとか軌道に乗り、
ハツカと仲間のチンパンジーの関係が落ち着いてきた2010年1月30日。

その日の実験室での個別のお見合いをリラックスした雰囲気で終えたあと、
スタッフがハツカを抱き、チンパンジー全員がいる野外の運動場に出るお見合いを
することにしました。

ハツカを連れて野外運動場に出るのは、事故以来。
かなりの緊張感が走ります。でも、つまずいた所は、やり直さなければ前には進めません。

チンパンジーの反応を見ながら、注意を払い、野外運動場へつながる扉を開け、
ハツカを抱いたスタッフが野外運動場に出ました。

そして、スタッフがロイに一歩近づいた瞬間!!
ロイの目が一瞬にして変わりました―――。

ロイはまたたく間に、けがをしてだらんとしているハツカの足をひっぱってスタッフから
ハツカを奪い、そのまま地面をずるずるとひきずりながらタワーに逃げようとしました。

すぐにスタッフが、大声で叫びながらロイを追いかけました。
ロイはタワーから方向を変え、運動場の芝生の上をハツカの脚を持ってずるずると
ひきずりながらなおも逃げました。
スタッフが走って数十メートル追いかけたところで、ようやくロイはハツカを手放しました。

そして、我に返ったロイは、キャーキャーと泣きわめきながらそのまま逃げて行きました。
ロイがハツカを奪った時、まわりにいた仲間のチンパンジーたちは、
一緒になってハツカを攻撃しようとする者も、ハツカを助けようとする者もいませんでした。
それほど、あまりに一瞬の出来事でした。

ロイに噛まれたハツカの左足 スタッフに抱きかかえられたハツカは、
  脚を数か所噛まれていました。
 犬歯が刺さったと思われる深い傷もありました。

 

 

少し落ち着いたハツカ でも、突然すぎて、ハツカも何が何だか
  わからなかったのでしょう。
 ハツカはロイに奪われひきずられている間、
  まったく泣きませんでした。

 スタッフに抱かれ、室内に戻ってから、
  せきを切ったように泣き始めました。

幸いハツカはちゃんと意識があり、命にも別状はありませんでしたが、今回の出来事で、ハツカの群れへの合流がさらに難しくなったことは否定できません。

 

半年前、“ハツカが殺されてしまうかもしれない”と思った血の気のひく思いを
今回また味わいました。
チンパンジーという動物を飼育している以上、本当に何がおこるかわからないと
改めて思いました。

お母さんに抱かれるイロハ ハツカと同じ時期に生まれたイロハは、群れの中で暮らし、
  お母さんに育てられています。

 群れの仲間とも、もちろんロイとも毎日のように
  楽しく遊んでいます。

 


一方、人工保育になってしまったハツカは、人の中で暮らしています。
今、本人は幸せかもしれませんが、大きくなるにつれ、
人と同じようには暮らせなくなっていきます。
チンパンジーの群れに戻してあげたくても、戻ることが命がけです。

イロハ(左)とハツカ(右) チンパンジーがチンパンジーの中で暮らせること。
 とても当たり前のようで、それがとても恵まれた
  幸せなことなのだと、ふたりをみていると感じずにはいられません。

 

 

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ミズキが表紙だよ 類人猿研究センター(通称GARI)のミズキを対象にして、
  世界で初めて、麻酔を用いずに大人チンパンジーの脳活動
  を計測することに成功しました。

 これまでにその成果が2つの論文になって公表されています
  (詳細はこちらこちら)。

 

ヒトのことをよりよく知るため、チンパンジーとヒトとを比較する研究がおこなわれています。
ヒトを対象とした研究では、いろいろな測定機械で脳を計測する研究が盛んです。

ところが、チンパンジーの脳活動の研究においては、それまで、麻酔をかけた状態でしか
計測がおこなわれていませんでした。
なぜなら、脳波計測装置をチンパンジーの頭に取り付け、測定の間、
動かずじっとしていることが、麻酔なくしては難しかったからです。

GARIの研究では、ミズキを対象として、麻酔をしない 状態で、脳波を計測することに
成功しました。GARIのスタッフとミズキとの間に長年にわたる親しい関係があり、
ゆっくり時間をかけて脳波計測の練習を積んできたことによるものです。

今回は、論文からは見えない脳波測定の裏話をちょっぴりお伝えします。

 

はじめて脳波測定にかかわるトレーニングを始めたのは、2005年11月のことでした。

音楽をかけた時、パニックになったミサキ チンパンジーは、攻撃的な反面、臆病なところがあります。
 
  見たことのない新しいものに対しては、とても怖がって触ることも
  近づくこともしないということがよくあります。

 そのため、新しい実験を始める時には、新しい実験器具や
  そのシチュエーションに慣らすトレーニングがとても大事です。
  トレーニングを失敗し、一度チンパンジーの中に「いや!」という
  気持ちが生まれてしまうと、そこから復活させるのは
  とても大変です。

本当に小さな小さなステップを繰り返し、確実に慣らしていくトレーニングがとても大事なのです。

脳波測定に関しては、チンパンジーにとってハードルの高い実験器具やシチュエーションが
たくさんありました。

○見知らぬ機械からコードがたくさんついた電極があること。
○そのたくさんの電極を頭につけること。
○電極をつけるために、ジェルを頭に塗ること。
○電極を固定するために、テープを頭に貼ること。
○見知らぬスピーカーから音が出ること。
そして、これが最大の難関。
○数分間、動かずじっとしていなければならないこと。

脳波測定の機械をチンパンジーに見せた時、はじめにどんな反応を示すかわかりません。
もしかしたら、チンパンジーが怖がって機械をはねのけ、
落として壊してしまうかもしれません。
まずは、そっくりに作られた偽物の機械で慣らすことにしました。
偽物の機械なら、トレーニングのときに壊されてしまっても損害が小さくてすみます。

たくさんのコードを頭にはりつけ、じっとしているミズキ はじめは、すべての大人チンパンジーで慣らし始めましたが、
  なかでもより協力してくれる可能性が高そうな「ミズキ」を、
  脳波測定の研究パートナーとすることにしました。

 

 

 

 

ミズキがはじめてトレーニングを開始したのが、2005年11月。
それから、何度も慣らすトレーニングを繰り返しました。

はじめは、偽物の機械を見せるだけ。次に、偽物の電極をあててみるだけ。
次にジェルを塗ってみる。
…というように、小さなステップを繰り返し、
トレーニングをはじめてから 5ヶ月後の2006年4月、
はじめて測定に必要な本物の電極7個をミズキの頭に取り付け、
固定することに成功しました。
そして、さらにトレーニングを続けた2か月後の6月、39回のトレーニングを経て、
40回目にはじめて本物の機械で脳波測定をすることができました。

頭の毛を一部剃ったミズキ でも、なかなかきれいな脳波形を示しません。
 脳波測定は、毛が邪魔をしたり、
  頭皮が汚れていたりすると測定がうまくできません。

 ミズキに協力をしてもらい、頭皮の一部の毛を剃り、
  スクラブで汚れを落とし、なんと!紙やすりで頭皮をこすり、
  ようやくきれいに脳波形を記録することに成功しました。

 

また、静電気など周囲の電気的ノイズがあると、うまく測定ができません。
ミズキには、見慣れないキラキラしたシートの上に座ってもらうことにしました。
このシートで、周囲の電気の影響を防ぎます。
それから、静電気をふせぐスプレーをミズキの体に吹きかけて、
測定に協力してもらいました。

一見、それほどでもないことのように思えますが、
人でもそのすべてをこなし、じっとしていることは結構大変です。
とりわけチンパンジーにとっては、かなり普通ではない状況です。
新しいものに順応できるミズキだから比較的スムーズにおこなえた気がします。

もちろん、協力してくれたミズキには、毎回、ミズキがよろこぶごほうびの食べ物をあげ、実験のあとには、ミズキとたくさん遊ぶ時間を作っていました。
「一緒に遊ぶ」ということが、ミズキにとっては一番のごほうびだったかもしれません。

長靴で遊ぶミズキ タオルをかぶって遊ぶ


ミズキは本当によくがんばりました。脳波測定をおこなった回数はなんと100回を超えました。

2008年8月。
ミズキはまもなく出産を控えていたため、104回目の測定をもって一旦終了となりましたが、
トレーニングも合わせると143回、期間にして2年9カ月もの間、
ミズキは協力し続けてくれました。

単純に「協力する」と言っても、そこにはやはり“信頼関係”がなければ成立しません。
研究に協力してもらうためには、普段からの丁寧な付き合いが欠かせないのです。

ミズキと娘のイロハ 今、ミズキはお母さんとして立派にがんばっています。
 お母さんとしても、私たちの研究のパートナーとしても、
  ミズキはこれからも立派に務めてくれることでしょう。
 ミズキ、ありがとう!これからもよろしくね。

 

 

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