林原類人猿研究センター(通称GARI)は、岡山県玉野市の出崎半島にあります。
ここでは、8人のチンパンジーが研究のパートナーとして暮らしています。
そんな彼らの暮らしをちょっぴりご紹介します。
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過去のえにっきはこちら→ 2004-2005年 2006-2007年
2009年8月、人工保育のハツカを、群れに戻すためのお見合い中に、アルファオス(リーダー的存在のオス)のロイが、ハツカに大けがを負わせてしまう事故が起こりました。
(詳細は2009年11月のえにっき参照)

ハツカの脚の骨折は、三回の手術を経て回復したものの、左足には麻痺が残っています。
しかし、私たちはハツカを群れの仲間たちと会わせるお見合いを
再開することを決断しました。
けがを負わせたロイに、再びハツカを対面させることは、
正直なところ、私たちにとって、とても怖いことです。
目の前で、ロイの様子が一変し、ハツカを攻撃してしまったおそろしい現場を見ているだけに、どうしても不安がつきまといます。
でも、そうしてハツカを群れの仲間たちから遠ざけていては、ハツカはいつまでたっても群れに戻ることはできません。
年明けから本格的にお見合いを再開するにあたり、2009年12月末、ハツカをガラス越しに群れのチンパンジーに会わせました。

数ヶ月ぶりにハツカと会った仲間たちの反応はというと、
麻痺が残るハツカの脚を不思議そうにじっと見つめるツバキや、
遊びに誘う様子の4才のナツキや1才のイロハ、ハツカを気にかける様子のミズキなど…
まずまずの様子でした。
しかし…、肝心のロイだけは、他のだれとも違う反応を示しました。
ハツカを見るなり、グリメイス(歯茎をむき出しにして恐れを表す表情)をして、
仲間に助けを求め、パニック状態になりました。
そして、そのパニックはすぐに攻撃の行動へと変わり、ガラス越しに大きく体を揺らしたり、暴れまわったりしました。
この先予定している対面でのお見合いが順調に行くとは思い難い、ロイの反応でした。
数回にわたり、間接的にハツカを会わせるお見合いを繰り返し、
ロイの様子が少し落ち着いた2010年1月14日、
本格的にハツカと群れのチンパンジーたちを対面させるお見合いを再開しました。
実験室にチンパンジーをひとりずつ呼び入れ、
そこにスタッフがハツカを抱いて連れて入ります。
数か月ぶりにハツカに会った仲間たちの反応は、
決して落ち着いて見ていられるものではありませんでした。
ロイは、「ハツカと会う」というそのことがわかっただけで、ぶるぶると震えだし、
会う前から落ち着きがなくなりました。どうしてよいかわからない様子で、
すぐにパニック状態になります。
ロイの中で、あの日の事件がやはりトラウマとなって残っているようでした。
ハツカの本当のお母さんのミサキも、一児の母であるツバキも、母性はあるはずなのに、
ハツカに対しては特別な距離感があるようで、
ピリピリとした空気でハツカを見つめていました。
私たちは細心の注意を払いながら、ほんの数十秒の対面でも、とにかく毎日仲間たちとハツカを会わせることを繰り返しました。
そして少しずつ、仲間たちの反応が変わり、交流がうまれました。
4才のナツキは、やんちゃにハツカを遊びに誘います。
ハツカもそれがうれしそうです。
1才のイロハとはすぐにけんかになるものの、
久々の仲間同士の遊びでハツカは生き生きとしていました。
オスのジャンバには、
ハツカから遊びかけるようにもなりました。
ジャンバは、ロイと同い年ですが、
なぜか女の子や子どもに好かれる独特の雰囲気を
持っています。ハツカもそれを察してか、
ジャンバにはとても積極的でした。
しかし、お母さん候補のツバキ・ミズキ・ミサキとは、接触はあるものの、
期待できそうな友好的な関係は見られませんでした。
3人の中でも、ミズキはハツカを気にかけている様子でしたが、
ハツカがミズキに心を許していませんでした。
すぐにパニックになっていたロイも、
だんだんと落ち着きを取り戻し、ハツカに顔を近づけたり、
触ったりするようになりました。
ハツカの方は、ロイを警戒して逃げ腰でしたが、
対面のお見合いを始めて半月後には、
ロイがハツカをくすぐり、ハツカも笑って応じるようになりました。
そうしてお見合いがなんとか軌道に乗り、
ハツカと仲間のチンパンジーの関係が落ち着いてきた2010年1月30日。
その日の実験室での個別のお見合いをリラックスした雰囲気で終えたあと、
スタッフがハツカを抱き、チンパンジー全員がいる野外の運動場に出るお見合いを
することにしました。
ハツカを連れて野外運動場に出るのは、事故以来。
かなりの緊張感が走ります。でも、つまずいた所は、やり直さなければ前には進めません。
チンパンジーの反応を見ながら、注意を払い、野外運動場へつながる扉を開け、
ハツカを抱いたスタッフが野外運動場に出ました。
そして、スタッフがロイに一歩近づいた瞬間!!
ロイの目が一瞬にして変わりました―――。
ロイはまたたく間に、けがをしてだらんとしているハツカの足をひっぱってスタッフから
ハツカを奪い、そのまま地面をずるずるとひきずりながらタワーに逃げようとしました。
すぐにスタッフが、大声で叫びながらロイを追いかけました。
ロイはタワーから方向を変え、運動場の芝生の上をハツカの脚を持ってずるずると
ひきずりながらなおも逃げました。
スタッフが走って数十メートル追いかけたところで、ようやくロイはハツカを手放しました。
そして、我に返ったロイは、キャーキャーと泣きわめきながらそのまま逃げて行きました。
ロイがハツカを奪った時、まわりにいた仲間のチンパンジーたちは、
一緒になってハツカを攻撃しようとする者も、ハツカを助けようとする者もいませんでした。
それほど、あまりに一瞬の出来事でした。
スタッフに抱きかかえられたハツカは、
脚を数か所噛まれていました。
犬歯が刺さったと思われる深い傷もありました。
でも、突然すぎて、ハツカも何が何だか
わからなかったのでしょう。
ハツカはロイに奪われひきずられている間、
まったく泣きませんでした。
スタッフに抱かれ、室内に戻ってから、
せきを切ったように泣き始めました。
幸いハツカはちゃんと意識があり、命にも別状はありませんでしたが、今回の出来事で、ハツカの群れへの合流がさらに難しくなったことは否定できません。
半年前、“ハツカが殺されてしまうかもしれない”と思った血の気のひく思いを
今回また味わいました。
チンパンジーという動物を飼育している以上、本当に何がおこるかわからないと
改めて思いました。
ハツカと同じ時期に生まれたイロハは、群れの中で暮らし、
お母さんに育てられています。
群れの仲間とも、もちろんロイとも毎日のように
楽しく遊んでいます。
一方、人工保育になってしまったハツカは、人の中で暮らしています。
今、本人は幸せかもしれませんが、大きくなるにつれ、
人と同じようには暮らせなくなっていきます。
チンパンジーの群れに戻してあげたくても、戻ることが命がけです。
チンパンジーがチンパンジーの中で暮らせること。
とても当たり前のようで、それがとても恵まれた
幸せなことなのだと、ふたりをみていると感じずにはいられません。
類人猿研究センター(通称GARI)のミズキを対象にして、
世界で初めて、麻酔を用いずに大人チンパンジーの脳活動
を計測することに成功しました。
これまでにその成果が2つの論文になって公表されています
(詳細はこちらとこちら)。
ヒトのことをよりよく知るため、チンパンジーとヒトとを比較する研究がおこなわれています。
ヒトを対象とした研究では、いろいろな測定機械で脳を計測する研究が盛んです。
ところが、チンパンジーの脳活動の研究においては、それまで、麻酔をかけた状態でしか
計測がおこなわれていませんでした。
なぜなら、脳波計測装置をチンパンジーの頭に取り付け、測定の間、
動かずじっとしていることが、麻酔なくしては難しかったからです。
GARIの研究では、ミズキを対象として、麻酔をしない 状態で、脳波を計測することに
成功しました。GARIのスタッフとミズキとの間に長年にわたる親しい関係があり、
ゆっくり時間をかけて脳波計測の練習を積んできたことによるものです。
今回は、論文からは見えない脳波測定の裏話をちょっぴりお伝えします。
はじめて脳波測定にかかわるトレーニングを始めたのは、2005年11月のことでした。
チンパンジーは、攻撃的な反面、臆病なところがあります。
見たことのない新しいものに対しては、とても怖がって触ることも
近づくこともしないということがよくあります。
そのため、新しい実験を始める時には、新しい実験器具や
そのシチュエーションに慣らすトレーニングがとても大事です。
トレーニングを失敗し、一度チンパンジーの中に「いや!」という
気持ちが生まれてしまうと、そこから復活させるのは
とても大変です。
本当に小さな小さなステップを繰り返し、確実に慣らしていくトレーニングがとても大事なのです。
脳波測定に関しては、チンパンジーにとってハードルの高い実験器具やシチュエーションが
たくさんありました。
○見知らぬ機械からコードがたくさんついた電極があること。
○そのたくさんの電極を頭につけること。
○電極をつけるために、ジェルを頭に塗ること。
○電極を固定するために、テープを頭に貼ること。
○見知らぬスピーカーから音が出ること。
そして、これが最大の難関。
○数分間、動かずじっとしていなければならないこと。
脳波測定の機械をチンパンジーに見せた時、はじめにどんな反応を示すかわかりません。
もしかしたら、チンパンジーが怖がって機械をはねのけ、
落として壊してしまうかもしれません。
まずは、そっくりに作られた偽物の機械で慣らすことにしました。
偽物の機械なら、トレーニングのときに壊されてしまっても損害が小さくてすみます。
はじめは、すべての大人チンパンジーで慣らし始めましたが、
なかでもより協力してくれる可能性が高そうな「ミズキ」を、
脳波測定の研究パートナーとすることにしました。
ミズキがはじめてトレーニングを開始したのが、2005年11月。
それから、何度も慣らすトレーニングを繰り返しました。
はじめは、偽物の機械を見せるだけ。次に、偽物の電極をあててみるだけ。
次にジェルを塗ってみる。
…というように、小さなステップを繰り返し、
トレーニングをはじめてから 5ヶ月後の2006年4月、
はじめて測定に必要な本物の電極7個をミズキの頭に取り付け、
固定することに成功しました。
そして、さらにトレーニングを続けた2か月後の6月、39回のトレーニングを経て、
40回目にはじめて本物の機械で脳波測定をすることができました。
でも、なかなかきれいな脳波形を示しません。
脳波測定は、毛が邪魔をしたり、
頭皮が汚れていたりすると測定がうまくできません。
ミズキに協力をしてもらい、頭皮の一部の毛を剃り、
スクラブで汚れを落とし、なんと!紙やすりで頭皮をこすり、
ようやくきれいに脳波形を記録することに成功しました。
また、静電気など周囲の電気的ノイズがあると、うまく測定ができません。
ミズキには、見慣れないキラキラしたシートの上に座ってもらうことにしました。
このシートで、周囲の電気の影響を防ぎます。
それから、静電気をふせぐスプレーをミズキの体に吹きかけて、
測定に協力してもらいました。
一見、それほどでもないことのように思えますが、
人でもそのすべてをこなし、じっとしていることは結構大変です。
とりわけチンパンジーにとっては、かなり普通ではない状況です。
新しいものに順応できるミズキだから比較的スムーズにおこなえた気がします。
もちろん、協力してくれたミズキには、毎回、ミズキがよろこぶごほうびの食べ物をあげ、実験のあとには、ミズキとたくさん遊ぶ時間を作っていました。
「一緒に遊ぶ」ということが、ミズキにとっては一番のごほうびだったかもしれません。

ミズキは本当によくがんばりました。脳波測定をおこなった回数はなんと100回を超えました。
2008年8月。
ミズキはまもなく出産を控えていたため、104回目の測定をもって一旦終了となりましたが、
トレーニングも合わせると143回、期間にして2年9カ月もの間、
ミズキは協力し続けてくれました。
単純に「協力する」と言っても、そこにはやはり“信頼関係”がなければ成立しません。
研究に協力してもらうためには、普段からの丁寧な付き合いが欠かせないのです。
今、ミズキはお母さんとして立派にがんばっています。
お母さんとしても、私たちの研究のパートナーとしても、
ミズキはこれからも立派に務めてくれることでしょう。
ミズキ、ありがとう!これからもよろしくね。
チンパンジーは寒さが苦手です。
類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーは、
寒い季節、野外の運動場にいる時は決まって、
「温室」と呼ばれるこの透明の部屋に入って
暖をとっています。
ちょっと変わった外観の「温室」。
これは、まわりが透明のパネルでできており、日光が当たると
中が温められるという、小さく頑丈な「栽培用ハウス」のようなものです。
もちろん、風よけや雨よけとしても利用できます。
GARIのチンパンジーは、だいたい朝8時から夕方5時過ぎまで野外の運動場に出ています。
GARIのある岡山県玉野市は温暖な気候ですが、
それでも真冬は、氷が張るほど冷え込むこともあります。
チンパンジーにとっては、こたえる寒さです。
そんな寒い日には、温室の中でワラのベッドを作り、ごろごろと過ごすのです。
現在、この温室は3機設置されていますが、
その時のチンパンジー同士の関係や、個々の性格により、
だれもがいつでもこの温室に入れるわけではありません。
そのため、温室に入ることができない
チンパンジーの寒さ対策のためにも、
こんな大型ストーブを設置することにしました。
この大型ストーブのある場所から、壁を通して太いパイプをのばし、
それぞれの温室と、その他一か所、地面に吹き出し口を作り、
あったか〜い空気が出るようにしました。
でも、この大型ストーブ。とても温かいのはいいのですが、
「ゴーゴー」とものすごい音がする、という欠点が…。
チンパンジーは、とても臆病なところがあり、
新しいものをとても怖がります。
聞きなれない音も、もちろん怖がります。

このため、実験装置にしても何にしても、新しいものを設置する時は
“慣らす”だけでとても時間がかかるのです。
太いパイプと大型ストーブも同じ。やはり“慣らし”が必要です。
そこで、パイプの設置工事をしたあと、“慣らし”のために、
チンパンジーをはじめてこの運動場に入れました。

みな太いパイプを少し警戒しましたが、意外にもすぐに慣れ、いつものように温室に入り、ぬくぬくと過ごしていました。
それでは、次のステップ!
この大型ストーブをいよいよつけてみることにしました。
さてさて、チンパンジーたちはどんな反応をするのでしょう?
3、2、1、点火!
ゴーゴーと大きな音を立ててストーブが動き始め、
パイプから温かい空気が出はじめると同時に、
みんなびっくりして大慌てで温室から飛び出してしまいました!
そして温室に向かって口々に「ワオ!ワオ!」と、
警戒を知らせる吠え声を叫び、
大大大パニックに!

そのパニックはなかなかおさまらず、
なんと30分近くも「ワオ!ワオ!」と大声を響かせていたのでした…。
チンパンジーの寒さ対策のために設置した大型ストーブですが、
この日は、温風ではなく、興奮で体が温まったかもしれません(笑)
これまでのえにっきでお伝えしている
人工保育の赤ちゃん「ハツカ」。
母親ミサキの育児拒否により、
やむを得ず人工保育となったハツカですが、
スタッフは一日でも早くハツカを
チンパンジーの群れに戻すため、
毎日のように、ハツカと群れのチンパンジーたちを会わせる「お見合い」をしていました。
(※お見合いについては2008年10月のえにっき参照)
類人猿研究センター(通称GARI)では、スタッフがチンパンジーと同じ部屋に入り、
対面する“直接飼育”をおこなっています。
スタッフは毎朝、チンパンジーのいる部屋に入って対面し、
体温測定や体重測定など、健康チェックをしながら朝食をあげます。
実験やトレーニングの際も同様に、対面します。
チンパンジーは臆病な反面、攻撃的でもある動物です。
しかも、大人のチンパンジーは、はかりしれないほどの力を持っているため、
かかわり方を間違えれば、大きな危険が伴います。
そのため、スタッフは常にチンパンジーの様子に気を配り、
チンパンジーと信頼関係を確立し、安全に付き合うことを心がけています。
ハツカと群れのチンパンジーのお見合いも、
対面しておこなっていました。
スタッフがハツカを抱き、実験室で個々のチンパンジーに
会わせたり、野外の運動場でチンパンジーの群れの中に
入って会わせたりしていました。
しかし、2009年8月22日。
このハツカのお見合い中に、突然の大惨事が起こりました。
その日、いつもと同じようにスタッフはハツカを連れて、チンパンジーの朝食や実験に行き、いつもと同じようにハツカを群れに戻すためのお見合いをしていました。
いつもと同じようにハツカと群れのチンパンジーとの関係も良好で、
4才のナツキとはやんちゃに遊ぶようにもなってきていました。

その頃のハツカには日々成長が見られていました。その日の朝も、
チンパンジーの寝室の清掃中に、いつもならしっかりとスタッフにしがみついているハツカが、
はじめて自分から床に降り、3つの寝室をはしゃぐように行き来しては、
スタッフたちに楽しそうな笑顔を見せていました。
スタッフも、そんなハツカの成長ぶりをとてもほほえましく思っていました。
天気の良い昼下がり。
スタッフがハツカを抱き、
7人のチンパンジーがいる野外運動場に入り、
その日3度目のお見合いをしている時、
事件は起こったのです。
スタッフが皆におやつをあげはじめてまもなく、
ハツカが朝と同じように自分から芝生の上に降りて、
赤ちゃんのイロハと遊び始めました。
そこにやんちゃなお姉さんのナツキが加わり、
芝生の上で3人のおいかけっこが始まりました。
私たちは、群れの仲間との社会的な交渉が増え始めた
ハツカの成長を喜び、見守っていました。
すると今度は、ナツキがハツカを抱いて遊び始めました。
ナツキはお母さんのマネをしたいのか、
ハツカをおなかにくっつけたまま、
その場所から少し離れたタワーにのぼりはじめました。
私たちのもとから遠く離れることには不安があったため、
すぐにふたりを呼びました。
しかし、よほど楽しかったのか、
ふたりともタワーの上から戻ろうとはしませんでした。
以前にも、同じようなことがありました。でも、その時はスタッフが「ハツカー!」と呼ぶと、
ハツカはすぐに「フフフ」という不安そうな声を出し、慌ててスタッフのほうに戻ろうとしました。
また、こんなこともあります。
スタッフが呼んでも群れのだれかが集まらない場合、アルファオス(群れのリーダー的存在の
オス)のロイは、来ない子を呼びにいってくれることがあります。
ロイは、わざわざ近くまで行って、「呼んでるぞ!」とばかりに促し、
集まらない子を連れてきてくれるのです。
ロイにはそんな、人の気持ちを察する高い理解力や、リーダーとしての面倒見のよさが
あります。
その日も、呼ばれても戻ろうとしないナツキとハツカを、
ロイがタワーまで迎えにいってくれました。
しかし、その時…。
“チンパンジー”という動物の衝動的かつ攻撃的な一面を、
まざまざと見せつけられる出来事が起こってしまったのです。
ロイは確かにいつもと変わらない様子で、ふたりを呼びにいってくれました。
しかし、普段からやんちゃばかりしてロイに怒られているナツキは、
ロイが近づいてきたことを恐れ、タワーの上にハツカを残したまま、
その場から離れてしまったのです。
1才の小さなハツカは、ひとりでは降りられないタワーの上で、
怖い存在の大きなロイと1対1で、向かい合ってしまいました。
その瞬間、ロイを怖がったハツカが「ギャー!」と叫び、
恐怖からかロイに対して攻撃的な態度をとったように見えました。
そして突然、ロイの中にあるスイッチが切り替わってしまいました――。
ロイは人が変わったかのように、
急にハツカの脚をつかんで大きく上下に振りまわし、
鉄でできたタワーの太い梁(はり)に、
ハツカをすさまじい勢いでガンガンと叩きつけはじめました。
ギャーギャーと悲鳴をあげるハツカを、何度も何度も振りまわし、叩きつけました。
まわりにいる他のチンパンジーたちも何が起こったのかと大騒ぎです。
あまりに突然のロイの豹変ぶりに、一瞬時間が止まったようにさえ感じました。
すぐにスタッフは「ロイ!!」と大声で何度も叫び、やめさせようとしましたが、
ロイにはまったく聞こえていないようでした。そこに、いつものおだやかなロイはいません。
それでもスタッフは必死に大声を張り上げながら現場に近づき、ハツカを助けに行きました。
すると次の瞬間――。
ロイは我に返ったかのように、「キャーーーー!」と叫びながら、ようやくハツカを手放し、
自分のしたことを叱られると思ったのか、泣き顔で逃げて行ったのです。
ロイに放されたハツカは、力尽きたのか声もあげず、まるで人形が落ちるかのように
2.5メートルの高さから地面にどさっと落ちました。
スタッフが拾い上げた時のハツカは、とても痛ましい状態でした。
体中血まみれでぐったりとしていて、ほんの数分前までの元気な姿が嘘のようでした。
野外運動場から出て屋内に戻ったハツカには、幸いにも意識がありました。
しかし、左脚は付け根からだらんと垂れ下がり、血がどんどんあふれ出していました。
さらにハツカは、パニックになってギャーギャーと泣きながら暴れたかと思うと、
急に意識を失ったかのように全身の力が抜けるといった状態を繰り返していました。
「ハツカ、死ぬなよ!」
「はっちゃん、がんばって!」
スタッフは皆、祈る気持ちで声をかけながらハツカを励まし、
何とかケガの状態を確認しました。
ケガはかなりひどい状態で、GARIの医療設備では助けることができないと判断し、
動物病院で緊急手術をすることになりました。
ハツカの大腿部(内もも)には、
ロイにつかまれた時のすさまじい勢いと
激しい力を
物語るように、指がささったと思われる3つの穴が
すっぽりと開いていました。
その穴からは、むき出しになった太い血管や
ズタズタになった筋肉、折れた大腿骨が見えていました。
体中に、あざや傷がたくさんできていました。
頭や体を強く打ちつけているので脳や内臓の損傷も心配されましたが、
幸いにもその点は大丈夫そうでした。
ハツカはボロボロになった小さな体で、
一生懸命がんばり手術を乗り切りました。
手術が無事に終わり、一命をとりとめましたが、まだ安心はできません。
まったく動けず、寝たきりの状態になったハツカを、
スタッフが交代で夜通し面倒をみる日が何日も続きました。

ハツカはショックのあまりか、極端に元気をなくし、
こちらがどんなに話しかけても、どんなにくすぐっても、笑うことさえしなくなりました。
ケガの翌日から、ロイをはじめとする群れの仲間たちは皆、
朝食や実験にハツカが来なくなったことを気にしているようでした。
「ハツカはどうなったの?いるの?」とでも言うように、
いつもハツカが過ごしている部屋の窓を見つめ、聞き耳を立てている者もいました。
それから約1ヵ月後。
骨折部分の再手術をおこない、
ハツカは徐々に元気を取り戻しはじめました。
しかし、骨折した左脚には麻痺が残り、
元のようには動かせず足をひきずって歩くことしか
できません。
群れの仲間たちとのお見合いも、
しばらくお休みすることになりました。
今回の出来事が、GARIのチンパンジーや私たちスタッフに与えた影響は、
とても大きいものです。
ハツカには、今も脚に麻痺が残っています。
ケガをさせたロイの心にも、あの日の出来事がトラウマとなって残っているようです。
ミサキがハツカを突然手放した日から、ずっと続けてきたハツカを群れに戻す取り組み。
いったん人が育てたチンパンジーを、早期に同じ群れに戻すことの難しさに
改めて気づかされました。
同時に、飼育者として、命を扱う責任の重さについても改めて考えさせられました。
群れの中にハツカのことを守ってくれるお母さんのような存在がいれば、
ハツカがちゃんとチンパンジー流の付き合い方をわかっていれば、
今回の出来事は起こらなかったのかもしれません。
複雑な社会関係を持つチンパンジーの群れで、何がどう作用してこんなことが
起こってしまうのか…。まだまだわからないことがたくさんあります。
今はただ、私たちが、ハツカにも群れのチンパンジーにも毎日きちんと向き合い、よりよい方法を模索するしかありません。
ハツカの脚が治って、いつかGARIのチンパンジーの群れの
中でみんなと一緒に元気に暮らせる日が来ることを
祈るばかりです。
今回は、チンパンジーに関連する、一部のスタッフのちょっぴり変わった“趣味!?”について
ご紹介します。
これ、何だかわかりますか?
実は、果物などについている「シール」なんです。
類人猿研究センター(通称GARI)では、週一回、チンパンジーの食料をまとめて購入します。
現在は、年間で、果物約30種類、野菜約40種類、その他ジュースやヨーグルトなどを
購入しています。
果物のうち、主にオレンジやバナナ、マンゴーやグレープフルーツなどには、
必ずと言っていいほど、このようなシールが貼ってあるのです。
チンパンジーの食事を準備する際には、シールははがして、
きれいに洗うので、シールの存在は少し面倒なのですが、
実はこのシール、オレンジならネーブルやバレンシアなど、
種類によっても、入荷元によっても違い、
とてもたくさんの種類がありそうなのです。
「一部のスタッフの変わった趣味」とは…、このシールを集めることです。
…とは言っても、本気で収集しているわけではなく、
週一回、一週間分の青果が入荷した際に、だれが一番に新しいシールを発見するかというところに楽しみがあるのですが…。
とは言え、現在このシールは122種類もあります。
この先、どれくらい集められるのでしょうか…。

チンパンジーの食事の準備の合間にそんな楽しみをみつけながら、
今日も愛情を込めてチンパンジーの食事を作ります。
9月5日。
ミズキの赤ちゃん“イロハ(紅葉)”が、無事1才のお誕生日を迎えました。
お母さんのミズキは、いわゆる“人工保育”のチンパンジーです。
幼い頃からチンパンジー社会で子育てを学習することが
できなかったためか、イロハを産んだ時も、
上手に赤ちゃんと接することができませんでした。
(※2008年9月のえにっき参照)
赤ちゃんを上手に抱けないし、おっぱいもあげられない。
さらには、“赤ちゃんの扱い方がわからない”という
ストレスからか、
生まれたばかりのイロハに、乱暴な行動を繰り返しました。
はしごにひっかけたり、ぶんぶんと振り回したり…。
でも、ミズキはその後、次第に赤ちゃんとの接し方を身につけ、
たどたどしいながらもちゃんと子育てをがんばっています。
そんな新米お母さんに育てられたイロハ。
彼女はとても「たくましい」女の子に育っています。
*イロハのたくましさ@ 〜手荒でけっこう〜*
お母さんのミズキは、ちゃんと赤ちゃんのイロハを育てていますが、
それでも、やっぱり時々嫌になることがあるようです。
イロハはお母さんに抱きついておっぱいを飲みたいだけなのに、
ミズキは「あっち行って!」と言わんばかりにイロハを激しく突き放すことがあります。
チンパンジーのいる野外運動場で、何やら騒ぎ声!!
もしかしてオスが暴れて赤ちゃんを巻き込む大事件に
なっているのでは!?
とスタッフは心配をして見に行きます。
行ってみると、イロハが「おっぱいが欲しい!」と、ミズキのおっぱいに吸いつこうとし、
ミズキが「嫌なの!!」と遠ざけ、お互いが自分の思い通りにならずに
なぜかふたりともギャーギャーと泣く親子ゲンカだった、ということもしばしばです…。
でも、お母さんにどんなに手荒な扱いを受けても、
イロハはやっぱりお母さんが大好きなようです。
*イロハのたくましさA 〜野菜でけっこう〜*
チンパンジーの赤ちゃんは、もちろんお母さんのおっぱいを飲みますが、
だんだんと大人たちが食べているものに興味を持ちはじめ、
食べ残している果物や野菜などを拾って食べるようになります。
林原類人猿研究センター(通称GARI)では、
スタッフが赤ちゃんに直接、
果物や野菜などの食べ物をあげることもあります。
4年前に生まれたツバキの子、ナツキが赤ちゃんの時は、
ぶどうが大好きで、ぶどうの他にもりんごやももなど、
果物ばかりを好んで食べていました。
4才になった今も、基本的には果物が大好きで、野菜は好き嫌いがはっきりしています。
じゃがいもや、さといもなどのいも類は好き。でも、ブロッコリーやチンゲンサイなどの
青物は嫌い。
イロハと同じ1才の人工保育のハツカも、基本的に野菜は食べず、口にするのは果物ばかり。しかも、ハツカは果物の中でも好き嫌いがある、ちょっぴり贅沢な女の子です。
それに比べイロハは…。
ふかしたニンジン大好き!ふかしたタマネギ大好き!
お腹がすいていれば、チンゲンサイだって小松菜だって何でも食べます。
もちろん果物も大好きですが、好き嫌いの少ないたくましい赤ちゃんです。
そんなイロハの1才のお誕生日には、
こんな豪華なケーキをプレゼントしました。
慣れない食べものでもひるむことなく、
まわりの大人たちを押しのけて、
ケーキもがっつりと食べていました。
紅葉(もみじ)が赤く色づく頃には
イロハは、さらにたくましく成長していることでしょう。
今回は、類人猿研究センター(通称:GARI)でおこなっている実験のひとつをご紹介します。
みなさんは、チンパンジーがどんなものを食べるか知っていますか?
アフリカに住む野生のチンパンジーは、住んでいる地域などによって違いはありますが、
主に果実や木の実などの植物を食べます。また、時には狩りをして小動物の肉を食べたり、虫を捕まえて食べたりもします。野生のチンパンジーが食べるものは、
年間およそ200種類もあるそうです。
一方、飼育下のチンパンジーはどうなのでしょう。
同じ「チンパンジー」という動物を飼育していても、
あげる食べ物の種類や数は飼育施設によってさまざまです。
GARIでは毎日、野菜や果物を中心に、
一日30品目を目標にあげています。
その他にも、彼らは季節とともに移り変わる運動場(放飼場)
の植物も食べています。
しかし、「植物なら何でも食べる!」というわけではなく、
彼らもちゃんと選んで食べているようです。
そこで、「チンパンジーの給餌方法」を考えるひとつとして、「食品目テスト」をしてみることにしました。
実験方法はいたってシンプル。
ひとりずつ実験室に呼び、食べ物を1種類ずつあげてみて、それを「食べる」のか、「食べない」のかを調べてみようというものです。
手始めに、果物から…。
リンゴ、キウイ、レモン、いちじく、すもも…。
現時点では、8種類の果物しかテストしていないため、
“まったく食べなかった”という食べ物はありませんでした。
しかし、テストを続けて品目が多くなるうちに、
食べるもの、食べないものが出てくると思います。
食べなかったものの中でも、「旬」という季節の変化や、
みんなと一緒なら食べるけれど、ひとりの時は食べない
という「社会的影響」の変化も表れるかもしれません。
まだ始まったばかりの実験ですが、
ヒトに、「納豆を食べる地域と食べない地域」、
「濃い味の地域と薄味の地域」という文化があるように、
将来的には、飼育下のチンパンジーにも、
それぞれの場所で食の違いが表れるとおもしろい結果が
出るかもしれません。
類人猿研究センター(通称GARI)で、はじめて誕生した
ロイとツバキの子「ナツキ」が、4才の誕生日を迎えました。
4年間、大きな病気もけがも無く、
よく食べ、よく寝て、お母さんの愛情をたっぷりと受けながら
とても元気に育っています。
「明るく元気な女の子」
ナツキはそんなイメージです。
今回はそんなナツキの、おもしろい写真や、
かわいい写真をご紹介します。
「バナナくちびる」
「タオルかぶって興奮!(父のロイもです)」
「ちゅー」
「体重なんて見たくないわ〜」
(…と言っているかどうかはわかりません)
「フェー」
おてんばでもいいから、
これからも元気に育ってね。
ナツキ、お誕生日おめでとう!
生後41日目から、人工保育となったミサキの子「ハツカ」が、
6月20日、無事1才のお誕生日を迎えました。
ハツカが人工保育になった日から、24時間、一日も欠かさず
いつもハツカのそばには、母親代わりとなるスタッフが
付き添っています。
本当のお母さんに育てられればいうことはありませんが、
スタッフはみな、少しでもそれに代わる愛情を
注いでいるつもりです。
1才。
本当なら、お母さんと一緒にチンパンジーの群れの中で
暮らし、仲間たちと遊んだり、お母さんや仲間の様子を
観察しながらいろいろなことを覚えたりする時期です。
活発に動き回って、体もたくましく成長し、
運動能力もぐんぐんと高まる時期です。
でも、残念ながらハツカは、まだ群れの中で生活が
できる状況ではありません。
仲間たちとお見合いをする時間以外は、
基本的にはスタッフとともに室内で過ごしています。
それでも、少しずつ、他のみんなと同じ環境に
慣れさせるため、スタッフは毎朝ハツカと一緒に、
チンパンジーの野外運動場を散歩したり、
外で遊ばせたりしています。
でも、当の本人は、外に出ると、裸足で土の上を歩くのが
苦手らしく、できるだけ土に触れないように、
いつも二足で走ってしまいます…。
室内にも、ハツカがたくさん体を動かせるよう、
いろんな工夫を施しています。
ハツカはやっぱりまだ室内の方が好きなようです。
室内で、スタッフがたくさんいると、
うれくなってとてもやんちゃに遊びまわります。
悪知恵も働き、「さわってはいけない」と言われているものを、
「だれか注意してくれないかなー」と、わざとこちらをチラチラ見ながらさわることもあります。
人の顔色をよくうかがう、賢く、あまえんぼうな女の子です。
ハツカと群れの仲間たちのお見合いは、
今も継続しています。
ハツカが、無事に群れに戻る日を期待しながら、
これからもハツカの成長を見守りたいと思います。
こちらは、ツバキの子「ナツキ」。もうすぐ4才です。
お父さん似(ロイ似)のナツキは、女の子なのにとってもやんちゃ。
赤ちゃんのころは、こんなにかわいかったのに、
今ではかなりのおてんば娘です。
そんなナツキは、群れの仲間たちにちょっかいを出して、
大人相手にケンカをしかけることもしばしば…。
年上のミサキを叩いたり、からかったり、
時にはアルファオスのロイをもからかい、やりたい放題。
しかし、度が過ぎると、ロイに叱られてしまいます。
もう“赤ちゃん”でないナツキは、大人たちによって少しずつ「群れのおきて」をたたきこまれているようです。
ナツキがやんちゃをするのは、
チンパンジーの仲間に対してだけではありません。
私たちスタッフに対しても、
人を見て態度を変えることがあります。
「この人はいける!」と思うと、時に、叩いたりひっぱったり、
子どもとはいえ、かなりの力でいたずらをします。
でも、そんなやんちゃばかりするナツキにもやさしい部分があります。
去年生まれた赤ちゃんの“ハツカ”。
人工保育のハツカは1才も近くなり、こちらもだんだんとやんちゃざかりになってきました。
ハツカは、いつもよく遊んでくれるナツキが大好きです。
ハツカを群れへ戻すための、ハツカと仲間たちとのお見合いの際、
いつもハツカはナツキに抱きつきます。
朝食時、ナツキが体温計測できちんとしているときにも、
ハツカは「一緒に遊ぼう!」とばかりに
ナツキの毛を思いっきりひっぱったり、
腕をつかんだりすることがよくあります。

見るからに、ナツキは毛をひっぱられて痛そうで、
うっとうしいくらい邪魔をされ続けているのに、
赤ちゃんに対してはとても寛容で怒りません。
ハツカをあやしてみたり、抱いてみたり、とても面倒見のよいお姉さんぶりです。
実は、ナツキのお母さん“ツバキ”も、とても面倒見がよい性格です。
そんな母親の性格を受け継いでいるのでしょうか?
赤ちゃんが群れの仲間に加わったことで、
いたずらばかりしていたナツキにも、お姉さんらしい、
やさしい一面があらわれた気がします。
ナツキが将来どんなお母さんになるのか、
今からちょっぴり楽しみです。
昨年9月に生まれたミズキの子「イロハ」。
たくましいイロハの成長は1月のえにっきでもお伝えしたとおりです。
最近では、だんだんとお母さんのミズキから離れて、
ひとりで動き回る姿がよく見られるようになりました。

そんな元気なイロハの行動で、私たちスタッフが手を焼いていること…。
それは、夜になると決まって“やんちゃになる”ということです。
昼間は、お母さんのミズキと一緒に実験室に入ってきても、
イロハは、いつもお母さんのそばにいて、離れようとしません。
ところが、夜、みんなで寝室のワラに横になると、
人格が変わったように遊びだし、
ひとりでどこへでも行ってしまうのです。

3才のお姉さんのナツキのところへ行って遊んだり、
ナツキのお母さんのツバキに抱きついたり、
オスのジャンバが寝ている上を歩いてみたり…。
そんなとき、お母さんのミズキは、ほったらかし。
オスたちも赤ちゃんのイロハには寛大な心で、怒りません。

しかし、アルファオスのロイの上をイロハが歩き始めた時は、
さすがに“やりすぎ”と思ったのか、
お母さんではない“ツバキ”がイロハの行動をとめました。
ツバキの子、ナツキが赤ちゃんのころも同じようなことがありました。
赤ちゃんのナツキは消灯後になるとなんだか楽しくなって、やんちゃに遊び、
なかなか寝ようとしませんでした。
そんなとき、ツバキがとった行動は…。
おもいっきりナツキをくすぐって“あやす”作戦!
さらにそれでも寝ようとしない場合は、
わざとナツキを手で追い払うようにして「あっちに行きなさい」
と“突き放す”作戦!
お母さんに突き放されたナツキは「フフフ」と泣き、
さみしくなって決まってツバキに抱きついて、そのまま眠りにつきました。
そんなことが毎晩のように繰り返され、いつの間にかナツキは
「夜は静かに寝るもの」ということを体で覚えたようです。
ミズキは、イロハのことより自分の“寝たい”という欲求が勝っているのか、
はたまたスタッフが何とかしてくれるだろうと思っているのか、
いまだにイロハをほったらかしにしています。
イロハの夜のやんちゃぶりは、まだしばらく続きそうです。
春がもうすぐそこまでやってきた、3月の終わり。
チンパンジーの室内運動場(第二放飼場)に、遊具として竹を設置することにしました。
まずは、スタッフが近くの山に竹を取りに行きました。
手頃な竹を切って、竹やぶから運び出し、
ある程度の枝を落として、軽トラックに積みます。これがなかなかの重労働。

竹をたくさん積んだ軽トラックを運転するのも、また一苦労です。
作業は、まだこれからが本番です。
長い長い竹を、二階のテラスに運び、さらに、
室内運動場の天井の格子から地面に向かって挿しこみます。
長い竹はかなり重く、不安定な場所での作業は、
バランスも崩して大変です。
なんとか竹をまっすぐ立てたところで、
さらに、竹の根元を動かないように、土に埋めて固定をします。
ここまでやって、やっと完成!!

…ということで、さっそくチンパンジーを
この運動場に招き入れることにしました。
さて、みんなはこの竹をどう使うのでしょう??
…チンパンジーのみんながとった行動は、
以前フジのつるをこの室内運動場に設置した時と同じものでした。

みんな、竹を食べる食べる食べる…。
その光景はまるでパンダのよう(?)です。
パンダと竹は似合うけれど、チンパンジーと竹は…どうなのでしょう?

結局、さんざん食べたあと、数時間で竹は地面から抜かれ、
三日もすれば、ボキボキと折られ、
数週間であっけなく役目を終えたのでした(笑)

今回は、類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーの
ちょっぴりおもしろ写真をご紹介します。

「長靴をはいたチンパンジー@」
長靴をはいて遊ぶツバキです。
黒い体に黄色いブーツ、なかなかステキです。

「長靴をはいたチンパンジーA」
長靴をはいて遊ぶミズキです。
長靴をはくと、おでかけ気分になるのか(?)
みんなるんるんと遊びます。

「口を開けて寝るハツカ」
なんともかわいい寝顔です。
でも、実は風邪で鼻がつまり、
口を開けて寝ているだけなんですけどね…。

「新聞を読むハツカ」
人工保育のハツカが新聞を読んでいるようです。
しかも、ハツカが指差しているのはゴリラの写真!?
昨年、類人猿研究センター(通称GARI)では、ふたりの赤ちゃんが生まれました。
6月20日に生まれたミサキの第一子“ハツカ”と、
9月5日に生まれたミズキの第一子“イロハ”です。
これまでのえにっきでもお伝えしている通り、ハツカは生後41日目から、
母ミサキの突然の育児放棄によりやむを得ず人工保育になりました。
そんなハツカに一日でも早くチンパンジーの群れで、チンパンジーらしく育ってもらうため、
毎日のように群れに戻す取り組みを続けています。
最近は、3歳のナツキお姉さんや、
年下のイロハと積極的に遊ぶようになりました。
また、時に怖い思いもするけれど、群れのアルファであり、
お父さんであるロイと楽しく遊ぶこともあります。
しかし、本当のお母さんであるミサキとは、
残念ながらいまだあまりよい接触はありません。
なぜかミサキはハツカのことを邪険に扱い、ハツカもそんなミサキを他のチンパンジー以上
に怖がってしまうのです。
劇的な進展はないものの、地道にお見合いを続けたいと思います。
一方のイロハは、生まれて間もなく
子育てに戸惑っていた
母ミズキから乱暴な
扱いを受けましたが、次第に成長している
“新米ママ”と、いつも一緒に過ごしています。
ヒトに育てられている「ハツカ」と、チンパンジーのお母さんに育てられている「イロハ」。
育った環境の違うふたりの赤ちゃんは、それゆえの個性の違いも出てきているようです…。
こちらは生後7ヶ月を迎えたハツカです。
ずいぶんと体がしっかりして、大きくなりました。
体重は約5キロです。
ハツカは人工保育になったその日から、
スタッフが集まるこの管理室で生活をしています。
スタッフが24時間つきっきりでケアをし、
母親に代わる愛情を注いでいます。
チンパンジーの仲間たちと慣れさせるためのお見合いの
時間以外、ハツカはGARIのスタッフ全員が出入りする
このにぎやかな部屋で過ごしています。そのため、
ハツカはスタッフにもこの部屋にもすっかり慣れて
しまいました。
なかでも、このソファがハツカのお気に入りの場所と
なりました。
生後5か月を過ぎた頃、ハツカの運動の発達を促すため、
ヒトの子ども用のジャングルジムをソファの横に置きました。
ハツカはすぐにジャングルジムもお気に入りになり、
よく遊ぶようになりました。
実際に、ジャングルジムでよく遊ぶようになってからは、
ハツカの運動能力がぐんと上がったように感じます。
ソファとジャングルジムがハツカの安心できる居場所になりました。
そして長い間、ひとりではその場所から離れることができませんでした。
しかし、最近は違います。
これまでは、母親代わりのスタッフがそばから離れると
「フフフ」と不安な声を出して呼んでいたのに、
生後6か月半頃から、突然ソファから離れることが
平気になり、部屋の床をひとりでうろうろするように
なりました。
部屋中いろいろなところをひとりで歩いて探索し、時にいたずらをします。
歩き回ってはスタッフのサンダルを持ち帰り、自分のおもちゃにすることもしばしば…。
とにかく人工物が大好きで、ハツカの前に「まつぼっくり」や
「竹」を差し出しても触ろうともしないのに、
プラスチックの「ボールペン」や「紙コップ」は、
自分から触り、口へ入れて離そうとしないのです。
他のチンパンジーが寝ている「ワラ」もハツカは嫌がります。
ちくちくかたいワラよりも、ふわふわの「タオル」が
大好きなのです。
さて、こちらはもうひとりの赤ちゃん、イロハです。
生後4カ月。こちらもずいぶんと大きくなりました。
体重は約3.5キロです。
スタッフ内では、イロハのちょっぴり顔が整っていない所と、
母ミズキの過剰な毛づくろいにより毛が薄くなってしまった
残念な見栄えを心配していましたが、最近やっと毛も生えそろい、
顔もかわいらしくなってきました。

イロハは、赤ちゃんの扱いがわからなかった母ミズキに、
生まれてすぐにぶんぶんとふりまわされたり、
数メートルの高さから落とされたり、乱暴な扱いを受けてきました。
そんな試練に耐えてきたイロハは、今では丈夫そのもの、
たくましい限りです。
物をつかむ力や、噛む力がハツカとは比べ物にならないほど
強いのです。
最近は、おっぱい以外にもリンゴやバナナなど、
スタッフがあげる食べ物もガジガジと食べるようになりました。
果物だけでなく、ブロッコリーやじゃがいも、セロリなど何でも
ガジガジ食べてしまいます。
食べ物を持っているスタッフの指までものすごい力で
噛んでしまうこともしばしばです。
本当に強くてたくましい赤ちゃんなのです。
それに比べ、ハツカは果物をあげてもほとんど
顔をそむけてしまい、いまだに人工ミルクばかり
飲んでいるのが心配です。
強くてたくましいイロハにも、やはり苦手なものがあります。
それは、人工物。
ハツカが平気な「ほうき」も、ハツカが大好きな「タオル」も、イロハは怖くて
びくびくしてしまいます。
ふたりの環境の違いは他にもあります。
ハツカが、寒さや冷たい風で「フフフ」とすぐに弱音を
吐くのに対し、
イロハは毎日寒さに耐えて外で元気に育っているので、
寒さなんてへっちゃらです。
肌の色も、ハツカに比べてよく焼けています。
人工保育ゆえちょっぴりよわよわしいハツカと、
普通以上のたくましさを見せる(?)イロハ。
一見、対照的なこのふたりの成長を、
この先も見守りたいと思います。
すっかり寒くなった今日この頃。
類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーたちも寒さに震える毎日です。
チンパンジーたちが生活する放飼場(運動場)に
たくさんあった草なども枯れてしまい、
すっかり緑が減ってしまいました。
特に第2放飼場(室内運動場)は緑も少なく、
さみしくなってしまいました。
そんなさみしくなった第2放飼場に、季節感たっぷりのエンリッチメントです!
(※「エンリッチメント」については2008年1月のえにっき参照)

床面積約150平方メートルの第2放飼場に、ケヤキやアベマキ、
サクラやコナラなどのたくさんの落ち葉を床いっぱいに敷きつめました。
おぉ!なんだかいい感じ?
そして、チンパンジーたちをこの落ち葉の放飼場に
招待すると、みんなすぐに思い思いの場所で、
せっせと落ち葉のベッドを作りはじめました。
落ち葉のベッドで休んだあとは、
背中にもたくさんの落ち葉がついているのが
なんともかわいい光景です。
また、落ち葉の上にパラパラとみんなの好物のヒマワリの種をまいてみました。
すると…、拾いにくい落ち葉の中から、時間をかけて丁寧にヒマワリの種を
探して食べていました。
何もない地面にただまくよりも、
拾いにくい落ち葉の上にまくことで、結果的に
食べ物を探して食べるという“採食時間”が増えます。
それは、食べ物を求めて遊動する野生のチンパンジーの
ような感じで、ひとりひとりが時間を有意義に使っている
ように見えました。

チンパンジーにとってはもちろんのこと、見た目にも楽しめるこんな落ち葉の使い道、
いかがでしょう?
さてさて、今年も残すところあとわずかとなりました。
ミサキの出産、ミサキの育児放棄によるハツカの人工保育、ミズキの出産…。
おめでたい話題や、ちょっと頭を悩ませてしまう話題など、いろいろあった2008年。
来年はどんな年になるのでしょうか…。
2009年もGARIをどうぞよろしくおねがいいたします。
今年9月に、女の子の赤ちゃん「イロハ」を産んだミズキ。
彼女の出産や育児については、以前お伝えしたとおりです。
(※詳しくは2008年9月のえにっき参照)
ミサキの生後41日目の突然の育児拒否の例があったため、
ミズキの子育てもなかなか気が抜けない状態ですが、
イロハは無事、もうすぐ生後3か月を迎えようとしています。
今も、ミズキはちゃんとミズキなりに子育てをしています!
チンパンジーの赤ちゃんは、四六時中、4本の手足でしっかりとお母さんの毛を
つかんでいます。
一日中しがみつかれていては、いくらお母さんと言えど、
さすがにちょっと“うっとうしい”と思うこともあるのでしょう。
ミズキは時々、イロハを地面(床)に置くようになりました。
また、これまでずっとイロハを「だっこ」していたミズキですが、
先日思い立ったように「おんぶ」をしはじめました。
11月11日のことです。
実験後の部屋の中で、ミズキとイロハ、そしてミサキ、
ハツカとスタッフのまったりした時間の時のことでした。
もぞもぞと落ち着かないイロハを、
ミズキが何とかしようとした時です。
偶然にもイロハがミズキの背中にまわってしまいました。
この瞬間、ミズキの頭の中に「!!」と電球がついたようでした。
きっと、「あれ?これだっこより楽ちん!」と思ったのでしょう。
それからというもの、ミズキはよくイロハをおんぶするようになり、
今では、ちょくちょくおんぶで移動する姿をみかけます。
でも、まだまだ気遣いが足りないのか、
移動の最中にイロハを落として泣かしてしまうことも
あるのですが…。
そんなちょっといい加減な一面もあれば、実験室内でイロハがおしっこをすると、
ミズキは置いてあるペーパータオルをとってイロハのおしっこを拭こうとするという
几帳面な(?)一面もあります。
さらに、ミズキならではの“だっこ回避法”がこれ!
なんとイロハを頭の上にのせてしまうのです。
赤ちゃんを置いたり、落としたり、頭にのせたり…、
少々扱いが乱暴な気もしますが、それでもいざというときには、
ちゃんとイロハを胸に抱きしめ、危険から守り、赤ちゃんの不安を取り除いています。
ミズキはミズキなりに“上手に息抜きしながら”子育てをがんばっているのです。
人工保育で育ったチンパンジー・ミズキが、
この先どんなユニーク子育てをしていくのか、
これからもじっくりと見守りたいと思います。
100点満点のお母さんに見えた“ミサキ”の突然の育児拒否。
それ以来、ミサキの子“ハツカ”の人工保育が 続いています。
(※詳しくは2008年8月のえにっき参照)
ミサキがハツカを育てなくなってからというもの、
スタッフは面倒を見ながら、毎日のようにハツカを群れに
戻す取り組みを続けています。
ハツカを少しでも早く群れに戻そうとする理由。
それは、チンパンジーがチンパンジーらしく
育っていくためには、
幼少期からチンパンジーの“群れ”という社会の中で
育つことがとても重要だからです。
チンパンジーの群れの中で、
赤ちゃん はたくさんのことを学びます。
“アルファ”という強い大人のオスには、
一目置かないといけないことを知ったり、
他の仲間からは食べ物を奪ってはいけないことを
知ったり…、
また、仲間と遊ぶことの楽しさを知ったり、
大人になれば交尾をすることを知ったり 。
ヒトのスタッフと過ごしていては経験できない、チンパンジーとしての経験を
ハツカにもできるだけ早い時期に経験し、学んでほしいのです。
でも、だからと言って、まだまだかよわいハツカを、
ぽん と群れの中に置いてくるわけにもいきません。
自分で食べ物もとることもできなければ、
オスのディスプレイ(誇示行動)などの危険から
自分の身を守ることもできないからです。
私たちは、ハツカを群れに戻す取り組みとして、さまざまななことをしています 。
でも、今の時点では、まだハツカの命をあずけられそうな仲間のチンパンジーはいません。
母親のミサキにいたっては、残念ながら、いまだにハツカに興味すら示しません。
自分自身も母親として子育てをしているツバキやミズキも、今はハツカの面倒までみる
余裕はなさそうです。
スタッフがハツカを育てながら、仲間のチンパンジーたちに積極的にアプローチを
続けていく。今は地道に その方法を続けるしかないようです 。
チンパンジーの社会の中で、チンパンジーとして生きていく
ための多くの経験をすることの大切さ。
そして何より、お母さんの愛情を受けて、
しっかりと守られながら、その安定を基盤に成長していくこと
の奇跡を、
ツバキ・ナツキ親子、ミズキ・イロハ親子、
そして、ミサキ・ハツカ親子のあり方を見ながら、
しみじみと考えさせられる気がします。
2008年9月5日、17時33分。
類人猿研究センター(通称GARI)で、三人目となる赤ちゃんが、
無事誕生しました!!
2005年7月のツバキ、2008年6月のミサキ、そして今回のミズキ。
これでGARIの女の子たちはみんな、
出産を経験したことになります。
出産に立ち会ってわかったのですが、チンパンジーもヒトと似ています。
陣痛の時間も、出産のスタイルもひとりひとり違うものでした。
ミズキは、これまで“大きな痛み”を経験したことがありません。
小さい頃から、危険なことをうまく回避してきたミズキは、群れの中でケンカが起こった時も、
自分だけはさっさと現場から逃げていて、大きなけがをしたことすらありません。
“大きな痛み”を経験したことがないミズキは、はたして陣痛に耐えられるのでしょうか?
案の定、出産の時には、ツバキやミサキが静かに陣痛に耐えていたのに対し、
ミズキは何が起こったのかというくらいに「キャーキャー」と大声をあげて騒ぎ、
パニック状態になっていました。陣痛がミズキにとって、はじめての“大きな痛み”だったに
違いありません。
実は、三人の出産のうち、スタッフが一番心配していたのがミズキでした。
なぜなら、ミズキは小さいころから人に育てられた“人工保育の”チンパンジーだからです。
そのため、ミズキは他の仲間たちに比べて、新しい実験機械や、
はじめての環境にも怖がらず、すぐに順応します。しかし一方で、
チンパンジーの仲間同士でコミュニケーションをとることは苦手。
“誰かをかまうよりも、自分がかまわれたい”、ちょっぴりわがままな女の子です。
はたして、そんな彼女が、群れの中で赤ちゃんを大切に育てられるのでしょうか?
出産のため、群れから一時的に分離し、産室に入ってわずか30分。
ミズキはわめきながらも、“スピード出産”で無事かわいい女の子を産みました。
そして、これまた「キャー」といって興奮しながらも、すぐに赤ちゃんを抱き上げました。
第一段階はクリア!これで一安心です。
しかし、安心したのもつかの間。
ミズキは赤ちゃんにおっぱいをあげる気配がありません。
出産前からおっぱいをさわれられるのをとても嫌がっていた
ミズキは、赤ちゃんがおっぱいを求めてもぞもぞと動いても、
赤ちゃんの頭を持っては、おっぱいから遠ざけています。
赤ちゃんを床に置いたり、逆さに抱いたり、
扱いも荒っぽいものでした。
ミズキは、はじめての赤ちゃんをどう扱えばよいかわからなかったのでしょう。
今までは、自分のために自分の好きなように過ごしてきたけれど、今は四六時中、
しがみついてくる赤ちゃんがいる。そのことにストレスを感じていたのかもしれません。
なんとミズキは、赤ちゃんとふたりで過ごしている部屋にある “はしご”に赤ちゃんをひっかけようとしたのです。
床からはしごまで2メートルほどの高さがあります。
落ちたらどうなるかわかりません。
それなのに、ミズキは何度もそのはしごに赤ちゃんを
ひっかけようとしました。
ミズキ自身、きっとどうしてよいかわからなかったのでしょうが、
お母さんとして決して良い行為ではありません。
実際に赤ちゃんは、何度かはしごからワラをしいた床に落ちてしまいました。
これ以上ふたりきりにしておくと、赤ちゃんの身が危ないと判断し、
スタッフがミズキと一緒にいることにしました。
その後、スタッフがミズキの授乳を介助したり、
一緒にいることでミズキの気持ちを落ち着かせました。
そして、出産からまる2日たったころ、
はじめてミズキがひとりで赤ちゃんに授乳する姿が
確認されました。
そして、日を追うごとに、授乳は安定しました。そのころから、
赤ちゃんに対する乱暴な行動もピタリと止まりました。
飼育されているチンパンジーの出産では、およそ二例に一例の割合で、
赤ちゃんをうまく育てることができないと言います。
それは、個別飼育などの理由により出産や子育てを小さなころから学習する機会が
ないことが原因のひとつだと言われています。
ミズキは、数年前からツバキやミサキの出産や子育てを見てきました。
おそらく、出産とはどういうものか、赤ちゃんとはどんなものかということは
学んでいたはずです。
それにも関わらず、実際はスムーズにはいきませんでした。
しかし、ミズキは少しずつ自分自身で体験をし、
少しずつ少しずつお母さんらしくなっています。
夜中も、これまでだったら好きな時間に好きなように
寝ていたのに、今は何度も赤ちゃんに起こされながら、
眠そうに夜中の授乳をがんばっています。
授乳が安定して以来、ミズキが赤ちゃんを離すことはありません。
人に育てられたチンパンジーのお母さんでもちゃんと立派なお母さんになれる!
ミズキにはそんなお母さんになってもらいたいと願っています。
ミズキの赤ちゃんは、
秋にちなんで「紅葉(イロハ)」と名づけられました。
GARIの8人目のチンパンジー、イロハを
どうぞよろしくおねがいします!
7月31日。
それは、突然起こりました。
朝、スタッフがチンパンジーに朝食をあげるため、
いつものようにみんなの居室(寝室)に
呼びに行った時です。
ロイ、ジャンバ、ツバキ…、一人ずつ確認をしていると…。
いつもなら、しっかりと赤ちゃんのハツカを抱いているはずのミサキのおなかに…、
ハツカがいない!!
チンパンジーの母子は、一般的に、生まれてから二〜三ヶ月間ずっと一緒に
寄り添っています。
起きている時も寝ている時も、赤ちゃんがおしっこをする時だってずっとぴったりくっついているのです。
それなのに、ミサキの体のどこにもハツカがいないのです。
「もしかして、オスが順位の低いミサキを攻撃して、ハツカの身に何かがあった!?」
「ハツカは!?生きてる!?」
その後、すぐにハツカが見つかりました。
なんとハツカはミズキに抱かれていたのです。
いつもとは違う状況に、仲間のチンパンジーたちは興奮ぎみでしたが、お母さんであるミサキは、特に取り返そうとするそぶりはありませんでした。
でも、まだ生後一カ月程度の赤ちゃんを母親以外の他の仲間が抱いているなんて、ただごとではありません。
ミズキは、しっかりとハツカを胸に抱いていますが、お母さんでないミズキに抱かれているハツカは、ずっと不安な声をあげています。
ミズキは、抱いても泣きやまない赤ちゃんをどうすることもできず、ややパニック状態です。
そんな状態をなんとか元通りにするため、スタッフが介入し、ミズキからハツカをとりあげ、ミサキに返すことを試みました。
パニック状態のミズキから、無理にハツカをとりあげることは、スタッフに危険がおよぶ可能性もあります。でも、こんな緊急事態の時に少しでも支援できるよう、日頃から信頼関係を築く努力をしているのです。
そうして、ハツカを抱いたミズキ、ミサキと同じ部屋に入り、なんとかミズキからハツカを返してもらいました。
そしてすぐに、ハツカはミサキに返されました。
ところがです。
スタッフからハツカを返してもらったミサキは、
はじめはハツカを抱いたものの、
これまでのように大事には抱えず、すぐに床に置こうとしたのです。
いったいどうして?
スタッフは、なんとかミサキにハツカを抱いてもらおうとねばりました。
しかし、ミサキはまったく抱こうとしません。
ハツカが「フフフ」という不安な声や、「キャー」という助けを求める声を出しても、これまでならすぐに助けていたのに、どういうわけかこの日から、まったく赤ちゃんの声に反応しなくなったのです。
いったい、彼女たちの間に何があったのでしょうか。
スタッフが不在にしている夜間から朝方までの間に起きた
出来事です。
だれも見ていないので、「ミズキがミサキの赤ちゃんを
抱いていた」という事実しかわかりません。
ミサキが何らかの理由でハツカを放置してしまい、ミズキが抱き上げて面倒をみようとしたのでしょうか?
それとも、赤ちゃんがほしくなったミズキが、強引にミサキから奪ったのでしょうか?
いろいろと想像はしてみますが、真実はわかりません。
いずれにしても、ミサキはこの時から、まったく別人のように変わってしまったのです。
まるで、“母性”というスイッチがパチンと切れてしまったみたいに。
昨日までの母親としての記憶を失ってしまったのでしょうか?
ミサキはおっぱいにさわられることや、
ハツカにぎゅっとつかまれることを極端に嫌がるので、母乳を飲ませることができません。
しかたなくハツカには人工ミルクを飲ませ、
スタッフが面倒をみることになりました。
出産から約40日間、かたときもハツカを離さず、100点満点のお母さんぶりだったミサキを見ているだけに、突然育児を放棄してしまったことが信じられません。
いったいどうして…。
母性のスイッチがもどる日は来るのでしょうか?
「ハツカには、ちゃんとチンパンジーの群れの中で育ってほしい。できれば、ミサキに育ててほしい。」という思いは捨てきれません。
ミサキがハツカを手放してから、
もうすぐ一カ月になろうとしています。
この間、出産後体重が落ちていたミサキをケアしながら、
ミサキにハツカを抱いてもらおう、
ハツカを群れの中で育ててもらおうとする取り組みを
続けていますが、なかなか簡単にはいきません。
でも、ミサキにもう一度お母さんになってもらうため、なによりハツカにチンパンジーらしく元気に育ってもらうため、これからもできるかぎり手を尽くし、彼女たちを応援したいと思います。
ミサキの出産にあたり、私たちスタッフにはふたつの大きな心配事がありました。
ひとつは、ミサキがちゃんと赤ちゃんを育てられるかということ。
これは、飼育下のチンパンジーが、およそ2例に1例の割合で、赤ちゃんを上手に育てられないという事例があるからです。(2008年5月のえにっき参照)
そして、もうひとつ。出産のため、群れから一時的に離れたミサキが、見慣れない赤ちゃんを連れて、安全に無事群れに合流できるかということ。
ミサキは、類人猿研究センター(通称GARI)の群れの中で一番順位が低い子です。それゆえ、いじめられたり、赤ちゃんを奪われたり、ひどい場合には赤ちゃんが殺されたりしないだろうか…、心配事は尽きませんでした。
しかし、ひとつめの心配事は、
私たちの不安をよそにミサキは難なく乗り越えました。
“乗り越えた”というより、出産後、
すぐに当然のように赤ちゃんのハツカを抱きあげ、
おっぱいをあげました。
その後も、上手に面倒をみています。
四足で移動する時も、ぶらさがって移動する時も、
ちゃんとハツカに手を添え、とても優しく、
とても上手に接しています。
そして、より不安だったふたつめの心配事。
ミサキを群れに戻すといっても、群れの仲間たちにとっては、はじめて見る赤ちゃんを連れての顔合わせ。いきなりドーンと一緒にするわけにはいきません。
まずは、様子を見ながら少しずつ個別にお見合いをすることにしました。
ミサキが産室にいる間も、他の群れの仲間たちの様子を気にしていたことや、産後の体力がそれほど落ちていないことから判断して、出産の翌日から、ミサキ&ハツカとほかの仲間たちとの“お見合い”を始めました。
“お見合い”の相手は、こちらの面々。
@ロイ(オス・12才) 群れのリーダー。ものわかりがいいが、乱暴な部分がある。
Aジャンバ(オス・12才) 二番手のオス。女の子や子どもに人気がある。
Bツバキ(メス・12才) ミサキが小さい頃、母親のようによく面倒をみた。三年前にナツキを出産し、現在も子育て中のお母さん。
Cミズキ(11才・メス) 人工保育で育ったちょっぴりわがままな女の子。
Dナツキ(2才・メス) ツバキの子。男の子みたいに活発なやんちゃ娘。
やはり、不安だったのはオスたちとのお見合いです。もしも、興奮したオスたちが暴れたら、赤ちゃんなんてひとたまりもありません。
「もし、ハツカが大ケガをしたら…、もしミサキが大ケガをしたら…」
さまざまな場面を想定して準備をし、緊張の中、個別にお見合いを始めました。
さて、仲間たちの反応はどうだったのでしょうか…?
オスたちは、はじめは興奮していたものの、
意外にも、とても友好的でした。
ミサキもオスたちに気を使い、
オスたちもミサキとハツカに優しく接し、
まずまずの雰囲気です。
2才のナツキも、小さな赤ちゃんをさわりたくて、
ミサキの手を自分のお腹にまわして、
ミサキのふところに入りこみ、
ハツカをさわろうと彼女なりにごまをすって
がんばっています。
ミズキも、赤ちゃんに興味津々。ただ、ミズキは少々扱いが乱暴なところがたまにキズです。赤ちゃんのキラキラした目を指でつついたり、赤ちゃんの手をひっぱったり…。
でも、彼女たちの反応もまずまずでした。
ところが…。私たちがまったく心配していなかったツバキの反応が、予想したものと全く違ったのです。
ツバキは、子育て経験もあるし、ミサキの母親代わりでもあったので、当然、すんなり受け入れてくれるだろうと私たちは思っていたのです。
ところが、会わせてびっくり!
ツバキは、ハツカを抱いているミサキを受け入れようとせず、完全に無視したのです。
それどころか、ミサキが挨拶がわりにツバキに
グルーミングをしようと近づくと、本気で怒り、
かみつこうとさえしたのです。
「ミサキひとりはいいけど、赤ちゃんを抱いたミサキは
絶対にイヤ!」
そんな雰囲気です。
なぜツバキがそんなにも、赤ちゃんを抱いたミサキを拒否したのか私たちにもわかりません。
ミサキは、一生懸命ツバキに認めてもらおうとがんばるのに、ツバキは拒否。そんな日が続きました。
お見合い4日目。
ミサキはいつものように、ツバキに受け入れてもらおうと近づきます。しかし、ミサキのことを受け入れられないツバキは、とうとうミサキを噛んでしまいました。
幸いミサキのケガは、軽いものでしたが、ツバキがミサキを認めてくれないとなると、群れへの合流は危険です。
しかしその後、少しずつお見合いを繰り返すと、お互いの緊張が少しずつほぐれたようでした。
そして、いよいよ全員で合流。
すると、ミサキはオスたちの近くに身をおきました。
オスたちが、ミサキやハツカにいたずらをしそうな子から、
上手に守ってくれています。
みんながミサキとハツカに友好的なので、
さすがにツバキもバツが悪くなったのか、
しだいにミサキとハツカを認めはじめました。
こうして、出産から8日後、ミサキとハツカは無事、群れに合流することができました。
ミサキは、ハツカが生まれてから一ヶ月以上、
起きているときはもちろん、寝ているときも、
かたときもハツカを離すことはありません。
どんなに暑い日だって、
一日中ハツカを大事に抱いています。
ハツカが群れに合流し、7人になったGARIのチンパンジーたち。
オスのロイ、ジャンバ。メスのツバキとナツキ母子、ミサキとハツカ母子、そしてミズキ。
おめでたいことは、まだ続きます。
実は今、ミズキも妊娠中なのです。
ずいぶんとおなかも大きくなり、ただいま臨月。
出産予定は9月初旬です。
ミズキは、GARIで唯一、人工保育の経歴を持つ、甘えん坊の女の子です。
そんな女の子が、しっかりしたお母さんになれるのでしょうか?
スタッフの期待と不安は、まだまだ続きそうです…。
ミサキの様子がおかしい!いよいよ出産!?
そんな兆候があらわれたのは、6月20日、午前1時半頃のことでした。
いつもなら、寝返りをしたり、モゾモゾと動いたりしながらも
基本的にはよく寝ていたミサキが、このときばかりは痛みで寝られない様子です。
数分おきにうつ伏せになったり、寝転がったりを繰り返し始めました。
出産の兆候があらわれたとき、すでにミサキの陣痛は10分間隔でした。
ミサキ以外の5人は、ミサキの近くでいつものようにぐっすりと寝ていましたが、
ミサキを産室に移動させるため、やむを得ず全員を起こし、
これから出産をするミサキと、まだ出産を経験したことのないミズキのふたりを
産室に移動させることにしました。そして、そこにスタッフ3名が同室しました。
満月の夜、午前3時です。
午前3時24分。
産室に移動した時、
ミサキの痛みはかなり増しているようでした。
体をよじらせたり、寝転がったり、ビクッと飛び上がったり、
どうにもできない痛みにただただ静かに耐えています。
泣きもわめきもせず、時折「ウッ、ウッ」と息をもらすだけで、
小さな体で一生懸命がんばっているミサキに、私たちは声を
かけてあげるくらいしかできません。
「がんばれ!ミサキ!」
数分おきに「ウッ、ウッ」という痛みが何度もくり返され、
1時間ほどたったころ…。
羊膜が見え始めました。
羊膜に透けて、赤ちゃんの頭の毛のようなものも見えています。
そして、2分後、羊膜が破け破水しました。
そこには、たしかに赤ちゃんの頭が見えました。
黒いつやつやした頭の毛が見えています。
しかし、破水してからしばらく、
赤ちゃんはそれ以上出る様子もなく、
ミサキが痛みに耐える時間が長く続きました。
そして、しばらく経ったあと…、
いきなりつるんと赤ちゃんの顔があらわれ、その後、すぐに全身が出てきました。
午前5時1分。
ミサキは、その瞬間上手に自分の手を背後にまわし、
赤ちゃんを下に落とすことなくやさしく受け止めました。
しかし…。
赤ちゃんは目を開けゆっくりとまばたきをしているものの、まったく産声をあげません。
3年前、ツバキがナツキを産んだ時、ナツキは生まれた瞬間、とても元気よく
「キキ、キャーーー」と産声をあげました。
それに比べて、ミサキのお産はひょうしぬけするくらいとても静かだったのです。
1分、2分、3分…依然、まったく泣かない赤ちゃんを
心配しましたが、
お母さんになったミサキは、だれに教わったわけでもなく、
一生懸命赤ちゃんの顔についた羊水をなめ続けています。
そして午前5時6分。
小さく「キャキャー」と赤ちゃんがかわいい産声をあげました!
スタッフもホッと胸をなでおろした瞬間でした。
出産から7時間後。ミサキは上手に授乳も始めました。
ツバキがはじめてお母さんになった時は、赤ちゃんの抱き方も、おっぱいをあげるということもまったくわからずオロオロしていたのに、 ミサキはこの3年間、ツバキの子育てをそばで見て、練習をしてきたからでしょうか。
はじめてなのに、とても上手に、
ごく当たり前のように赤ちゃんに接します。
“小さなお母さん”ミサキの赤ちゃんは、かわいい女の子でした。
しっかりとお母さんにしがみつき、よくおっぱいを飲む元気な元気な女の子です。
ひとまずは、母子共に健康に生まれ、ミサキもちゃんと“お母さん”をしていて、一安心です。
スタッフ全員で案を出し合い、
赤ちゃんに「初夏(ハツカ)」と名づけました。
これからのハツカの成長が楽しみです。
(ミサキの群れへの合流の様子は後日お伝えします)
5月4日。
うれしいことに、ミサキの逆子が治りました!!
スタッフはそれぞれ、
「ワシの逆子体操のおかげ!」とか
「わたしの念力のおかげ!」とか
「わたしのご祈祷のおかげ!」とか…
おとなげなく、いろいろ言いあい、
ミサキの逆子が無事治ったことを喜びました。
これで、ひとつ心配事が減りました。
そして、5月7日。
類人猿研究センター(通称GARI)のスタッフで、
近くの神社にミサキの安産祈願に行きました。
「無事に、元気な赤ちゃんが生まれますように…」
「“すっぽん!”と安産で生まれますように…」などなど、
スタッフそれぞれの願いをお祈りしてきました。
最後には
「ミサキがいいお母さんになりますように。
元気な赤ちゃんが生まれますように。」
と、絵馬もかかげて…。
みんなの思いが届いて、
母子ともに健康に出産を迎えられますように。
がんばれ!ミサキ。
そして、その夜から、ミサキの出産の兆候をみる「夜間観察」をはじめました。
スタッフが自前工事で、居室(チンパンジーの寝室)に設置した監視カメラで、
毎晩、夜通し観察をしています。
まだ、ミサキは毎晩ぐっすりと眠り、出産の兆候はみられません。
毎晩、夜間のチンパンジーを観察していると、彼らの寝相や、夜の行動もなかなかおもしろいものです。眠気と戦って、大変ではありますが…。
もうすぐ赤ちゃんが生まれるなんてことをおそらく
わかっていないミサキは、気持ち良さそうに寝ています。
そんなミサキの寝顔は、とってもかわいいんです。
来月の今頃は、
このかわいいミサキのそばに
さらにかわいい赤ちゃんがいることでしょう。
この大きなおなか!
いったいだれのおなかでしょうか?
これは、類人猿研究センター(通称GARI)の群れで、
末っ子のように育ってきた女の子、ミサキ(現在9才)の
おなかです。
実は、ミサキの大きなおなかの中には、赤ちゃんがいるのです。
ミサキは2007年8月に初潮を迎えました。
それからわずか3ヶ月後の妊娠でした。
あまりに早いミサキの妊娠に、スタッフもちょっとびっくりしてしまいました。
そのため、流産の危険性なども心配されましたが、ミサキのおなかの中の赤ちゃんは、すくすくと育ち、臨月を迎えました。
ミサキの妊娠が確認されてからしばらくして、彼女のあるおもしろい変化に気付きました。
それは、食べ物の中で、なぜか「白ネギ」をとても好むようになったこと。
チンパンジーは普段、甘いものやカロリーの高いものを好みます。
GARIでは毎日、野菜やフルーツを中心に食べ物を与えていますが、
その中でもチンパンジーは、野菜よりフルーツを好んでいます。
野菜でも人気なのは、甘いさつまいもです。
ミサキも、それまでは「さつまいも大好き!」とばかりに、
いつも一番に食べていたのですが、妊娠してからしばらくすると、
決まって一番に「白ネギ」や、葉野菜を好むようになったのです。
人の妊婦さんで、「妊娠期間中には、やたら○○が食べたくなった」という話を聞きます。
チンパンジーの妊婦さん、ミサキにとっては「妊娠期間中には、やたら“白ネギ”が食べたくなった」のかもしれません。
妊娠が確認された2007年11月から約5ヶ月。
ミサキの体重は、4〜5kg増えました。妊娠期間中、特に体調を崩すこともなく、いたって健康な妊婦さんです。
おなかの中の赤ちゃんも、超音波診断(エコー)で見る限り、
しっかりとしたチンパンジーの赤ちゃんに育っているようです。

しかし、心配事もあります。
それは、ミサキの赤ちゃんが“逆子”であること。
逆子の状態のまま出産を迎えてしまえば、難産になるおそれがあります。
スタッフはそれぞれ、一生懸命ミサキのおなかをマッサージしたり、“気”を入れたりして、
念力で(!?)逆子を治そうと努力しています。
もうひとつの心配事。
実は、飼育下のチンパンジーは、およそ2例に1例の割合で、赤ちゃんが上手に育てられないと言われています。
流産や死産はやむを得ませんが、幼い頃から個別で飼育されていたり、
身近に子どもを育てているチンパンジーを見る経験がなかったりすることによる
“経験不足”が原因で、我が子を抱かなかったり、
おっぱいをあげなかったり、
育児放棄をしてしまうお母さんもいるのです。
また、育児経験があるチンパンジーでさえ、時には自分の子どもを抱かなくなるケースもあるのです。
はたして、ミサキはちゃんと赤ちゃんの面倒をみられるのでしょうか?
ミサキは、他の仲間より3年遅れでGARIにきました。
その時、心細かったミサキにお母さんのように接してくれたのが
3歳年上のツバキです。
そして、ミサキはこの数年、
そのツバキの赤ちゃん「ナツキ」を、
まるで自分の妹のようにかわいがって面倒をみてきました。
きっと、ミサキなら大丈夫。
我が子をしっかりと育ててくれるはず!
スタッフは、そう願っています。
さらにもうひとつの心配事。
ミサキは、GARIの群れの中で一番順位の低い子です。
順位の低いお母さんの子どもは、やはり“順位が低い”というのが、チンパンジーの社会です。
順位の低い赤ちゃんが、群れの中で順調に育つだろうか。いじめられたり、ひどい場合には殺されたりしないだろうか…。スタッフの心配事は尽きません。
チンパンジーの妊娠期間は、およそ235日(約8ヶ月)。
ミサキの出産予定日は6月初旬です。
かわいい赤ちゃんを抱いた、
新米お母さんのミサキを想像してわくわくする一方で、
それまでは、気の抜けない日々が続きます。
類人猿研究センター(通称GARI)のチンパンジーが暮らす
野外運動場(第一放飼場)。
ここは、自然の地形をそのまま生かした運動場です。
運動場に生えている木や草は、近隣の山に生えている
植物ともちろん同じです。
毎年、春になるとチンパンジーたちが好んで食べる植物があります。
それは、仏様へのお供えとしてもおなじみの「ヒサカキ」です。
この時期は、このヒサカキの枝に無数についた
“花”を食べるのです。
チンパンジーたちは、季節の変化に敏感。
この時期は、どんぐりの実!
この時期は、ニワゼキショウの花!
この時期は、ヒサカキの実!…というように、
運動場に生えている季節ごとに変化する植物を、上手に見つけては食べています。
そんな彼らにとっての旬の素材が、今は「ヒサカキの花」なのです。
花が開くこの時期のヒサカキは独特のにおいを放ちます。
運動場に風が吹くと、あたりはヒサカキの匂いにつつまれます。
チンパンジーたちもこの匂いを感じてヒサカキの花を見つけているのでしょうか?
この時期の運動場には、あちこちにチンパンジーが
食べたあとのヒサカキの枝や葉が落ちています。
その枝をひろって、ナツキはふりまわして遊ぶことも
あります。

中には、運動場にころがっていたビンの中に
、
ヒサカキをつめこんでみたりする子まで…。

天気のいい日、運動場にある山の中に出かけては、
枝ごとボキッ、ボキッと折っては食べる彼ら。
自然の植物を食べることはかまいませんが、おかげで運動場の植物は年々少なくなっています。設立当初に比べて、山の緑の風景もずいぶん変わってしまいました。
今後、チンパンジーに破壊(?)されてゆく運動場の山に、どのように緑を増やしていくか。
チンパンジーたちに快適に過ごしてもらうためにも、
植物たちに元気に育ってもらうためにも、重要な課題のひとつです。
昨年の秋、「環境エンリッチメント」の取り組みのひとつとして、
チンパンジーの暮らす野外運動場に ドラム缶を設置しました。
ドラム缶を、ディスプレイの道具や、遊び道具として利用してくれたら…という思いからです。
(2007年9月のえにっき参照)
設置した当初、チンパンジーたちは、ドラム缶を警戒するばかりで、
私たちが期待したように活用してはくれませんでした。
しかしその後、ロイがディスプレイの道具としてドラム缶を
叩く姿が
何度かみられるようになりました。
力強く「ドンドンドン!」と叩くロイ。
大きな音の出るドラム缶は、自分の力の強さをアピール
するのに、よいアイテムだと思ってくれたのでしょうか!?
さらに、今月のこと。彼らは新たなドラム缶のおもしろい使い道を発見したようです。
林原類人猿研究センター(通称GARI)のある
岡山県玉野市は、瀬戸内海沿岸の温暖な気候です。
それでも朝晩はかなりひえこむこともしばしば。
ある朝、ドラム缶の上にたまった雨水が凍っていました。
ロイは、きらきらと太陽の光にかがやくその氷を
見つけるやいなや、
木の枝を上手に使って氷を取り出し、うれしそうに持ち
運んで食べはじめました。
「だれにも取られたくない!」とばかりに大事そうに。
ところが、半分くらい食べるとさすがに寒くなったのか、
氷を置いて暖かい所へ去っていってしまいました。
そして、このラッキーなおこぼれにあずかったのが、
ツバキやミズキです。
なるほど…。ドラム缶ってこんな使い道もあったのですね…。
こうした使い道が、今では他の仲間にも広がり、
毎朝ドラム缶をチェックするのが
彼らの日課になっているようです。
こちらが意図したことでなくても、彼らのエンリッチメントに
なることはたくさんあります。
チンパンジーにとっての、小さな“わくわく”をたくさん増やしていけるようこれからも取り組みたいと思います。