
第1回「ツバキ×伊谷原一所長」はこちら
第2回「ミズキ×不破紅樹研究員」はこちら
第3回「ロイ×洲鎌圭子獣医」はこちら
一年に一度の特別企画。
インタビュー第4回目です。
毎日、顔を合わせているスタッフだからこそ見えてくる彼らのこと。
そのお話から、林原類人猿研究センター(以下、「GARI」)のチンパンジーの個性や、
個々のスタッフとチンパンジーの関わりを感じていただければ幸いです。
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GARIは1999年に設立されました。
それから3年後。
2002年5月にセンターにやってきた平田研究員。
第4回は、平田聡研究員にジャンバのことをインタビューしました!!

――ジャンバと初めて会ったのはいつですか?その時の印象を覚えていたら教えてください。
平)初めて会ったのは、確か1999年3月だったと思います。
まだGARIは旧施設で、チンパンジー達が熊本からやってきて間もない頃に、
見学者として遊びに来ました。
当時、3歳のロイとジャンバとツバキ、まだ2歳台のミズキの総勢4人でした。
チンパンジーはみんなまだ小さかったので、普通に一緒に部屋に入って過ごしました。
ロイは遊びたがりで、レスリングのような遊びをしばらくしました。
ツバキは突然襲ってこようとしたりして、おてんばでした。
ミズキは天井にぶらさがって近づいてはメガネを取ろうとするなど、ベタベタくっついてきました。
ジャンバは…、
一番印象が薄いです。
普通の姿勢で頭がかたむいて、首をかしげているような感じでした。
たぶん同じ部屋でどこかにいたはずなのですが、首をかしげているチンパンジー、
という以上のことは記憶にありません。振り返れば、三つ子の魂百まで、
みんな当時から今とさほど変わらない性格だったのだと思います。

――確かに小さい頃のジャンバは今以上になぜか頭が傾いていましたね(笑)。
私も出会ったころは、「ジャンバはなんでいつも首をかしげて上の方を見ているんだろう。
何を考えているんだろう?」と思っていました。
実は、何も考えていなかったのかもしれませんが(笑)。それは、いまだにわかりません。
平田さんはGARIに来る前、京都大学霊長類研究所(以下、「霊長研」)で研究をされていましたよね。
そこでチンパンジーとかかわる機会があったと思いますが、それまでの印象と比べて、
“GARIのチンパンジーはここが違った”とか“同じだった”とか
“こんなことが新鮮だった”などあれば教えてください。
平)“違った”こととして一番印象にあるのは、ミズキ以外のチンパンジー達が、
ヒトの環境の物々やその変化に対してとても敏感で警戒心が強いことです。
霊長研のメンバーのうち、私が研究で付き合いのあったチンパンジーたちは、
小さい頃からヒトの環境に慣れているためもあって、
新しい実験装置や道具などが入ってもそんなに驚いたりはしませんでした。
例外的なことではありましたが、実験中に、あるいはヒトとチンパンジーが同室しているときに、
周囲の人が部屋から出たり入ったりしても平然として大きな支障にはなりませんでした。
ロイたちは、新規な物に警戒し、少しの環境の変化にも驚いて恐がってしまいます。
部屋のパネルが少し違うものに変わった、とか、あたりのエアコンの音が止まった、とか、
そういった少しの変化で緊張して動けなくなってしまいました。
生後すぐからの環境の違いで大きく違ってくるものだと実感しました。
――確かに。新しい実験装置を設置した部屋にロイたちを連れてくるのは一苦労でしたよね。
まず部屋に入ろうとしないし、キャーキャー泣き叫ぶし。
ジャンバはキャーキャーと泣き叫びはしないけど、無言で部屋に来ないか、
部屋に来ても実験装置を見ないようにするか…。ちょっと変わっていますよね。
それに比べて人工保育のミズキやハツカはやはり新規なものを恐がりませんね。
実験装置などに慣らす上では大変ですが、臆病な所もあるというというのが、
本来のチンパンジーの姿ではないでしょうか?

突然ですが、ジャンバの好きな所、嫌いな所はありますか?
ちなみに私は、ジャンバの筋肉質な所と、行動が変な所が好きです。
平)好きなところは、漂々としているところです。人間のことはお構いなし、というような、
ちょっと距離があるところが逆に妙に惹きつけられるところでもあります。
嫌いなところは、特にないです。そんなに深い付き合いにならないためもあり。
――「そんなに深い付き合いにならない」というのがなんか平田さんらしいですね(笑)。
私はジャンバがちょっと迷惑そうでもガンガンに「ジャンバ好き!」という思いを
アピールしてしまいます(笑)。
でも、実はプライベートゾーンが人より広そうなところは、
ジャンバも平田さんも似ている気がしますけど。

――ところで、これまでで記憶に残るジャンバとの思い出はありますか?
平)以下、2002年8月20日は、私がジャンバと仲良くなろうと森村さん監督のもとで、
はじめて私の主導で一緒に遊ぼうとしたときの記録です。
10月29日は初めて完全にジャンバと1体1で同じ部屋で過ごそうとしたときの記録です。
そんなだったなあ、と懐かしく思います。
**********
<2002年8月20日>
ジャンバと行動学実験室で遊ぶ。
1回目 森村さん同室。ジャンバ、ご飯をもらうと上にあがって、接触しようとしない。
少しだけ追いかけっこになり、その流れで接触。泣き始めたので帰した。
<2002年10月29日>
14:40−14:50 ジャンバ 対面室に呼んで1対1で対面するが、びびって泣いて、脱糞して、
まったく落ち着かないので、終了。
**********
――2002年といえば、ジャンバが6才のころですね。
当時のジャンバはまだまだ“ビビリ”だったんですね。
今もかなりの臆病者ですが、新しい人に対して泣いたりはしませんから、
そう考えると少しは大人になったんでしょうね。
ところで、ジャンバが人間だったら、平田さんとはどういう関係だと思いますか?
平)友達にはならなかったでしょうね。
仕事上の付き合いで名刺交換くらいはするかもしれません。
うまく言い表せませんが、私とジャンバはぜんぜん違うタイプのような気がします。
――なるほど。なんだかジャンバと平田さんの接点が見つからない…?(苦笑)
“接点”といえば、実はGARIに来たロイ(♂)、ジャンバ(♂)、ツバキ(♀)、ミズキ(♀)、
ミサキ(♀)は、みな血縁関係がなかったのですが、
2005年にロイとツバキの間にナツキが生まれ、
2008年にロイとミサキの間にハツカ、ロイとミズキの間にイロハが生まれ、
気づけばジャンバだけが群れの中で血縁関係のない人(?)になってしまったんですよね。
まぁ、チンパンジーの世界ではそんなこと知ったことではないでしょうが、
ヒト目線で見るとさみしい気も…。
ジャンバの子どもがなかなか生まれないことについてどう思いますか?
平)確かに、ジャンバの子どもの顔を見てみたい気はしますが、
今のところは「子どもが生まれなくて心配」ということはありません。
ジャンバがこれからも健康でいればまだあと30年は現役バリバリでいられますし、
年ごろの女性(チンパンジーの話です)と一緒に暮らせる環境を保ってあげれば、
そのうち何とかなるのではないか、と思います。
それに、人間でもそうですが、子どもができるかどうかというのは運もありますし。
ジャンバはGARIの女性陣(繰り返しますがチンパンジーの話です)に人気があります。
これまで通り仲良くやっていければ、それだけでよいのではないかと思います。


実は、2011年8月末で平田さんはGARIを退社し、
京都大学霊長類研究所熊本サンクチュアリで研究をされることになりました。
GARIで過ごした9年4か月を振り返って、お聞きしたいと思います。
――この9年4か月、毎日のようにチンプと対面して、
いろいろな出来事やいろいろな思いがあったと思いますが、
振り返ってGARIのチンプと過ごしたこの9年4ヶ月はどうでしたか?
平)霊長研では、1歳の子どもチンパンジーと少しだけ同室して遊んだことがあります。
でもほんの少しだけで、「チンパンジー」を丸ごと体感するには至りませんでした。
やはり、同じ部屋で直接やり取りすると、360度同じ環境を共有して、
空気を共にする感じがあります。
チンパンジーと一緒にいると、独特の空気が漂います。
チンパンジーとヒトと生物学的にとても近いので、
人間とやり取りするときと同じようなやり方で通じるところがたくさんあります。
しかし、やはり、違う種なので、違うところがあります。どこが同じでどこが違うか、
今の私には表現できません。たぶん細かいところで複雑に絡み合っています。
そうしたものの総体が、独特の空気として漂うことになります。
その場にいたら当たり前のように体に染み入ってくる空気ですが、
チンパンジーからしばらくの期間離れていると、それがどんな空気だったかよく分からなくなります。
そうしたちょっとつかみどころのない空気感というのを十分味わうことができたことは、
とても有難いことだと思います。
これからもチンパンジーの研究を続けていきたいと思いますが、
今のところうまく言葉では表せない感触、体の中に吸い込んだはずの空気を逃がさないように、
今後に生かして行ければと思います。

――最後に、GARIのチンプのみんなにメッセージを!
平)研究のためにああしろこうしろと色々な課題を持ち込みましたが、
結局はみなさんのためを思ってのこととご理解いただければ幸いです。
これからも、適当に人のいうことを聞いて、気に入らなかったら反抗して、
楽しく幸せに過ごしてください。

今回のインタビューは、いつも冷静沈着な平田さんの「アツイところ」を少しでも聞けたら
と思っていたのですが、やはりクールな回答でした(笑)
でも今回、平田さんにインタビューをして、ジャンバのこともさることながら、
平田さん流のチンパンジーとの関わりを改めて感じられたように思います。
平田さんが以前、酔っぱらった時に言ったひとこと「チンパンジーを幸せにしたい」という言葉。
私は覚えていますよ!
もちろん私たちもそう思っています。
GARIのチンパンジーも熊本サンクチュアリのチンパンジーも日本全国のチンパンジーも、
みんなが幸せに暮らせるようにしたいですね。
次回もお楽しみに!! (掲載月は未定です)